「良い立地」の定義は場合により異なる
前回の続きです。2つの街道がクロスする交差点に学習塾が立地する意味は何でしょうか?
学習塾の特徴として、多くの場合、代金を支払う人と、実際にサービスを受ける人が異なることが挙げられます。授業料を支払うのは保護者で、実際に授業等を受けるのはそのお子さんたちです。
お子さんたちは、小・中・高等学校から一度自宅に戻り、通塾し、授業後には帰宅するでしょう。つまり、「自宅→教室→自宅」と移動します。徒歩や自転車で通うとすると、移動距離は想像以上に短くなることが予想されます。また、保護者もなるべく自宅から近くの校舎に通わせたいと思うのが普通でしょう。
こうした場合、全国展開するナショナルチェーンにとっての「良い立地」が、そのまま学習塾の個々の校舎にとっても良い立地になるかどうかを考えると、必ずしもそうとは限らないと言わざるを得ません。
つまり、“不特定多数”のお客さんを相手にする場合と、“特定少数”のお客さんを相手にする場合とでは、「良い立地」の定義が異なるのです。そして、学習塾の場合、後者の場合の「良い立地」の特徴を良く把握し、定義する必要があるのです。
「不特定多数・低頻度型」業態にとっての「良い立地」と、「特定少数・高頻度型」業態にとっての「良い立地」
学習塾に実際に通学してサービスを受けるのは子供達であり、彼らは通常は学校から帰宅後に「自宅→教室→自宅」と移動する。しかも、徒歩や自転車で週に複数回移動することもあるため移動距離は、想像以上に短くなることを前回は確認しました。
街道が交差する主要交差点は、商圏を分断する要素の一つである大きな通り2本に面しているため、分断された一部分の商圏の末端に位置することを意味します。図は、2本の太い線がそれぞれの街道を、その交点が主要交差点をそれぞれ表し、周辺に住宅地が4つある様子を示しています。今回のケースでは1の立地に学習塾2校が隣り合っていました。
特定少数が高頻度で利用するサービス(以下、特定少数・高頻度型)を提供する場合、図の[1]の立地への行き帰りの利便性が高いお客さんは、4つの住宅地の交差点に近い位置に居住する人が考えられます。
しかし、街道があることで、[1]の左上と右側からの集客に高い期待をするのは危険かもしれません。むしろ、住宅地の中心に位置する[2]~[5]のような立地に校舎があった方が、通学の利便性を感じるお客さんを取り込みやすいかもしれません。もちろん、住宅のはりつき具合が弱く、十分な顧客数の確保が困難な場合、話は別ですが。
実際に、この八王子市楢原町のケースでは、住宅地の[4]と[5]の間の秋川街道沿いの[4]のある側に「明光義塾」が校舎を構えており、外見上は明光義塾の方が繁盛している印象を受けます。
学習塾以外で特定少数・高頻度型と考えられるコンビニエンスストアやドラッグストア等の業態についても同様に街道沿いへの出店が確認できます。
白金台の商圏分析をしてみよう【その5】でもお話ししましたように、後背地に住宅が密集している区域の入口やその中心にあたる立地の評価を考え直してみるのは、特定少数・高頻度型の業態の場合は特に、有意義なことと思われます。
個人で開業を考えていらっしゃる方は、「不特定多数・低頻度型の業態にとって良い立地が、必ずしも特定少数・高頻度型の業態にとっても良い立地であるとは限らない」という考え方をご検討いただき、よろしければぜひ立地判断の際のご御参考にしてみてください。