かつて、まだ大型商業施設や再開発案件の数が少ない一方で、テナント企業の数は増えつつあったころ、力関係は前者が圧倒的に強いものでした。

しかし、その後、大型商業施設や再開発案件の数が増え“オーバーストア”の状態になるにつれて、両者の力関係は同じ程度になり、近年では後者の力が勝る傾向が見られます。出店交渉において、テナント側の意向が尊重されやすくなったということです。

業界関係者からは「テナント企業とデベロッパーとの力関係は、最近、逆転している」という声もきかれます。仕事でお会いする商業施設側の御担当者様にも、お一人で多くの施設・区画を受け持たれており、それらに関する日々の対応に追われるあまり、新たな魅力的なテナント企業の情報を収集するのに苦労されている方が多いように思います。

そうした状況に対して、新たなサービスや仕組みも登場しました。

2021年11月12日の日本経済新聞では、「イオンリテールがGMSやSCに誘致するテナント発掘を強化するため、専用サイトを設けて交渉を簡単にする」という記事が掲載されています。「テナント誘致は担当者が個別に情報収集し、長い場合1年以上かかるケースもあった」そうで、契約までのスピードアップが期待されているとのことです。

そのちょうど2年後の2023年11月12日の商業施設新聞には、商業施設.com㈱のテナントの出店情報を商業施設に提供するシステムが紹介されています。背景には「デベロッパーや商業施設運営事業者は、近年空き区画への対応で、画一化されたテナント群、オーバーストア、アパレルを代表とするネット通販の影響など、厳しい多くの課題に直面している」ことがあります。

こうしたサービスや仕組みが出てきたことにより、テナント企業と商業施設との交渉機会の設定自体はしやすくなったといえます。人手不足の中でこうしたサービスや仕組みを利用することは有意義なことであり一層の普及が望まれます。

しかし、便利になった反面、テナント企業によっては商業施設からの出店情報・要請が殺到することも考えられ、テナント企業には、情報を厳選する目を養う力が求められます。

新進気鋭のスタートアップ企業のように、まだ希少性があり、出店意欲が旺盛な企業の場合、出店を継続し、テナントを長期的に市場に根付かせ、寿命の長い屋号とするためには、手っ取り早く出店できるところに受動的に出店するよりも、短期間で利用経験者の総数を増やし、顧客基盤を固めることが期待できるような、集客力の強い施設を主体的に狙っていく姿勢も必要です。便利なサービスや仕組みを使用開始するタイミングにも配慮が求められます。

すぐに出店できる空き区画があるという理由で店舗数を増やす過程で、企業業績が悪化したり、最悪の場合、倒産に至ったりするケースは過去に散見されます。

大型商業施設とテナント企業が店舗数を増やし多様化する中で、成功事例、失敗事例に該当するケースは蓄積されてきています。同じような失敗を繰り返さないために、過去のケースを分析し、教訓を明確にすることで、失敗確率は低く、成功確率は高い出店を目指したいものです。

具体的には?というお声が聞こえてきそうですが、この先はなかなかブログには書きづらいものです。ですが、この約四半世紀の間に、出店・多店舗化に関する事例もだいぶ蓄積されてきました。そこから成功や失敗の法則的な事柄を導き出し、それらを今後の出店に関わる方々、とりわけ、これから出店をしようとする企業関係者、に共有を図ることは有意義なことと思われます。

そのような話を共有させていただく場として、弊社では、2020年以来休止していた対面セミナーを4年ぶりに再開することにいたしました。開催は2024年3月15日(金)午後、於丸ビル(JR東京駅徒歩1分)となります。詳しくはこちらをご覧ください。少人数の会ですのでぜひお早めにお申し込みください。教材を2024年版にリニューアルしつつ、皆様のご参加を楽しみにお待ちしております。