2000年前後に新たに出現した好立地
昨日の続きです。店舗開発の視点で、日本マクドナルドをとりまく2000年前後の時期を捉えた場合、それはどのような時代であったか?
それは駅ビルや郊外型ショッピングセンターなどの商業施設がが、様々な開発事業・再開発事業により急増した時期でした。
マクドナルドは、1999年11月以降に開業した店舗の立地を確認する限り、こうした新たに出現した好立地に、1999年後半までのようには確実に出店できていなかったと言えます。
2000年ごろに、以前のマクドナルドであれば獲得できたはずの、ある好立地物件を他社にとられてしまったことに対して、藤田田社長がお怒りになられた、ということを関係者から耳にしたことを思い出します。
なぜマクドナルドは好立地物件をとられてしまうようになったのか?
ではここで問題です。なぜマクドナルドは、好立地の物件を競合や他社にとられてしまうようになったのでしょうか?
好立地の物件をマクドナルドがとれずに他社がとったということは、マクドナルドの店舗開発力が低下し、他社の店舗開発力が上昇したことを意味します。
盤石だったはずのマクドナルドの店舗開発力が、こうも早く逆転する理由は何か?
それは、マクドナルドの店舗開発担当者、しかも優秀な、が他社へ移ったということです。
自社で育てるより他社から招いた方が早いという発想のもと、店舗開発力を高めたい企業は、優秀な店舗開発担当者を他社から招き入れます。
信じがたい話ですが、商業物件は、人についていると思わせられることがよくあります。あるA社の優秀な店舗開発担当者が、他のB社に移ると、A社が出店すると思われていた立地にB社が出店するということはよくあることなのです。
好立地に毎年コンスタントに複数の店舗を開発する彼らの力量は尊敬に値します。
こうした人材が流出したこともマクドナルドが不振に陥った原因の一つ、いや、その中でも、かなり痛手となる原因だったと言えるでしょう。
日本マクドナルドの人材マネジメントに訪れた転機
また少し視点を変えて、経営戦略の視点から、日本マクドナルドが不振に陥った理由を思い起こしてみましょう。
企業の成長を支えた功労者や、ある専門性の高い業務の専門家の実績に対する、経営者による理解や敬意の欠如は、有能な社員の意欲を低下させます。
こうした人材が流出することにより、企業の成長計画の実現が難しくなってしまう。これも、不振のマクドナルドに起こっていた現象と考えられます。
成長が鈍化した組織から、これから成長しそうな組織に移ることは、チャレンジングなビジネスパーソンには当たり前のことです。
また、企業の成長期を支えた社員と、その企業が成熟期になってから入社した社員とでは、当該企業への愛着や業務に対する本気度が異なり、それがいわゆる”温度差“となります。後者の社員があたかも自分がその企業の成長に関わり、貢献したような言動をとるとき、前者の社員のモチベーションは大幅に低下し、時には、好意の裏返しで敵意に近い感情を抱かせるものです。
そうした彼らがその企業を辞して他社に移るとき、彼らの勤労のモチベーションは、本気で愛した直前にいた企業への“報復”のようなものが、その源泉となりえます。
これは、トレードに出されたスポーツ選手が、古巣には負けたくないと思うのとほぼ同一であるといえるでしょう。これは、決して悪いことではありません。
こうした背景から、有能な社員が流出し、競合企業へ移ったこともマクドナルド不振の理由の一つと考えられます。
ここで、ふと思い出したことがあります。
スターバックスコーヒーの新入社員研修でシアトル本社に行ったとき、ハワード・シュルツ会長とのコーヒーテイスティングの時間があり、「Ask me questions, anything!(なんでもいいから質問していいよ!)」とおっしゃるのですが、みんな緊張してシ~ンとしていました。
そこで、「急成長の企業が、あるレベルの成長ステージを超えた時、経営環境がそれまでとはガラリと変わる瞬間がある、と、日本のとある経営者が言っていたが、あなたもそのような体験をしたことがありますか?そのような時期に、会社として最も大切なことは何ですか?」というような趣旨の質問をしてみました。
シュルツ会長は、「yeah, yeah(ある、ある)」と、頷かれた上で、こうおっしゃいました。
「The most important thing is, you need to make sure that old people and new people stick like glue.(そういう時に一番大切なことは、創業期からの社歴の長い社員と、新しく入社した社員が、接着剤のようにくっつくよう手を尽くすことだ)」
そして、「stick like glue, glue(接着、接着)」と繰り返しながら、ご自身の両掌をぐりぐりと接着してみせてくれました。
これも、同じころ(2001年)の話です。
好立地物件をとられてしまうようになったもう一つの理由
話がそれてしまい、人材面の内容になりましたが、元に戻します。マクドナルドは、なぜ好立地の物件を他社にとられてしまったのでしょう?
注意していただきたいのは、“とられてしまった”という表現です。これは今後、当ブログでお話ししようと考えている内容にも関連しますので、ぜひご傾聴(けいちょう)ください。「そんなこと百も承知だ」という方もいらっしゃると思います。そういう方は、プロの開発担当者の方なので、今日の当ブログはお休みください。以下は、そうではない、という方に向けてお話しします。
好立地、もっと言えば一等地、にマクドナルドをはじめとする一流企業が出店しているのを見て、一般の人は、その企業や屋号を認識します。こうした経験が積み重なって、一般人はその屋号を記憶します。(“消費者の記憶に残ることの価値”については改めてお話しします。)よって、多くの企業がそうした立地を巡って競争します。
以前もお話ししましたが、1999年当時のマクドナルドは、日本全国を600以上のエリアに分けて、各エリアの駅や強力動線、主要交差点、ショッピングセンターなど出店可能な立地を網羅的に把握し、出店の優先順位をつけて、そこに着実に出店していました。
しかし、2000年以降、それまでマクドナルドが得意としてきた立地以外の“新たな立地”が質量ともに存在感を増したのです。続きは明日のブログで。