前回の続きです。最初に確認すべきことは、『ワークマン』は、2018年までに不採算店舗が増えて、収益性が低下していたことです。

不採算店舗が増えると、チェーン企業は(株式を上場している企業は特に)不採算店舗の閉鎖により利益率の向上を図ります。あるいは、手っ取り早くトップラインを引き上げるため、新規顧客の獲得を目的とした新業態開発を行うことが多いです。

2019年の有価証券報告書には、次のような記載があります。(以下、抜粋)

経営環境及び会社の対処すべき課題

(今後の見通しが楽観できないなか)

  • ワークマンプラスの全国の主要都市へ出店を拡大し、既存店への波及効果を高める。
  • 店舗展開ではワークマンプラスを路面店での新規出店30店、ショッピングセンター6店舗、スクラップ&ビルド5店舗、既存店改装転換22店舗で合計75店舗となり、全体では46都道府県で873店舗のネットワークを展開してまいります。
2019年3月期 有価証券報告書

新たな店舗フォーマットである『ワークマンプラス』を増やすだけでなく、未出店の県にも出店し、全国に店舗網を拡大しようとしていたことが分かります。

これは、普通ならとても積極的な内容と捉えられがちですが、出店数を増やすことや、未出店の立地にも出店すること、未出店の市場(県)に急速に展開することで、全国制覇に向けて動いていることを強調する様子は、会社の焦りの裏返しと捉えることもできます。

全国の主要都市にはそれまで出店していなかったということで、計画的な出店は十分に行われてこなかったことも推察できます。主要都市で路面店を急速に増やすのも、賃料比率が急激に上昇することが考えられます。

さて、『ワークマンプラス』は売上増には効果があったようです。しかし、その一方では新たな課題も出てきました。2020年と2021年の有価証券報告書には、“優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題”という項目が追加され、以下の記述があります。

2020-2021年 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題

店舗フォーマット

客層拡大を目的としたワークマンプラスの開店以降、一般消費者中心に認知度が高まっております。現状の店舗フォーマットでは客数の増加に対応しきれず、駐車台数の不足や限られた売場面積の関係上、販売機会ロスが増加しております。新規出店から売場面積及び駐車場の拡張を行い、新フォーマットの標準化に取組み、ワークマンプラスの効果の最大化を図ります。

2020年3月期 有価証券報告書 2021年3月期 有価証券報告書

『ワークマン』の名前がよく聞かれるようになり、一般消費者の間で認知度が高まり、多くのお客さんが来店したそうです。それ自体は良いことなのですが、車が止められない、混雑していて店内に入れない、待たされる・・・いった状況が起こった、つまり、店舗が客数の増加に対応しきれていなかったことが分かります。コロナ禍の真っ只中だったので、十分な来店者数ではなくても混雑したものと思われます。

それに対して、売場面積・駐車場の拡張が行われました。これは敷地面積が増え、設備投資額も増加することにより、賃借料・減価償却費などの固定費用が増加することを意味します。主要都市にワークマンプラスの路面店を出店することも並行して進んでいることを考えると、こうした固定費用の増加は将来の収益性に悪影響を及ぼすことが考えられます。

2022年の有価証券報告書には『#ワークマン女子』が登場します。

2022年 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題

店舗フォーマット

客層拡大を目的としたワークマンプラスの開店以降、一般消費者中心に認知度が高まっております。現状の店舗フォーマットでは客数の増加に対応しきれず、駐車台数の不足や限られた売場面積の関係上、販売機会ロスが増加しております。新規出店から売場面積及び駐車場の拡張を行い、新フォーマットの標準化に取組み、ワークマンプラスの効果の最大化を図ります。

そのほか、一般消費者をターゲットとした新業態店舗「#ワークマン女子」を展開し、繁盛エリアや店舗密度が低い都市部などへの出店を図ります。これにより、顧客の棲み分けを行い、既存店の繁忙緩和や客層拡大により売上高の増加に取り組みます。

2022年3月期 有価証券報告書

繁盛エリア、これは超広域繁華街、つまり、新宿、梅田、名古屋、天神などの全国的に有名なターミナル駅がある都市です。その他、店舗数が少ない都市部への出店を図るということで、賃料比率は益々高まっている方向に進んでいます。ファッション性が高い商品は、通常は都市部から郊外へと普及するものです。そう考えると郊外の“繁忙店舗”から、これから出店する都市部の店舗に客が流れることは期待しにくいです。

そして、2023年。ワークマンプロが登場します。

2023年 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題

お客様ニーズに合わせた店舗展開

一般消費者への認知が広がったことで、駐車台数不足や売場面積のアンマッチによる販売機会ロスの増加など、店舗運営課題が生じております。新規出店やスクラップ&ビルドを行った店舗から敷地面積を拡張し、集客力を高めることで対応を進めております。

そのほか、顧客ターゲットを明確にし、#ワークマン女子やワークマンプロを展開することで顧客の棲み分けを図るとともに、都市部エリアの開発を推進し利便性を高めるなど、お客様満足度の向上に取り組んでおります。

都市部エリアの開発を推進するとのことで、もうくどいですが、賃料比率はさらに上昇する予感がします。ワークマンプロが追加され業態数も増え、(これは出店とは直接は関係しませんが)商品の幅が広がることを意味し、原価率にも宜しくない影響があるはずです。

そして、最近では業態開発がさらに続き、しかも店舗密度が低い都心出店の極めつけで、2023年9月1日にワークマンの新業態Workman Colors1号店が銀座4丁目と5丁目の間に位置するイグジットメルサ5Fに出店しました。

また、2024年2月22日には『#ワークマン女子』が沖縄に出店しますが、そこでは同時に更なる新業態である『Workman Kids』の一号店も併設されるとのことです。

沖縄は地理的にも遠く離れており配送費用などが嵩むため、出店を慎重に検討するエリアです。新業態を沖縄から出店するのも何とももったいない気がしますが、ワークマン社は、そのような感覚は持ち合わせていないようです。

以上の情報から、『ワークマン』では、以下のような“怖いこと”ことが進行していると推察されます。

  • 固定費の急激な増加にともない損益分岐点売上高が上昇し、客数が少しでも減少すると深刻な事態が生じるような状況に陥っている。
  • 旧来の『ワークマン』を利用していた優良顧客の離脱も進む可能性が高くなっている。
  • 何よりも怖いのは、“世論の逆流”が起こる可能性があること。コロナ禍で多くの企業が出店を控える中で積極的に出店するテナントとして明るい話題を提供し、好意的な世論が形成されてきたが、社会が通常に戻ると、逆向きの流れが作用しはじめ、それにより良くないニュースが増幅されて客離れが止まらなくなる。一瞬の間だけ拡大した客層もリピートしなくなり、旧来の『ワークマン』を愛用していた優良顧客もいなくなる。
  • しかし、賃料・減価償却費などの固定費は、引き続き重くのしかかる。

以下の表は最新の四半期報告書の一部を抜粋し、加工したものです。

項目前第3四半期累計期間(百万円)当第3四半期累計期間 (百万円)増減(%)前第3四半期累計期間(%)当第3四半期累計期間増減
営業総収入100,844106,1625.3%100%100%
売上原価64,68667,2864.0%64.1%63.4%-0.8
販売費及び一般管理費15,39018,19718.2%15.3%17.1%+1.9
営業利益20,76713,086-0.4%20.6%19.5%-1.1
https://www.workman.co.jp/ir_info/pdf/2024/43ki_3q_houkokusho.pdf

前年と比較すると、営業総収入の伸び率が5.3%増と、積極的に出店しているにしては低い印象を受けます。それに対して業態を開発し客層を拡大しているのに原価率は不思議と抑えられているものの、店舗開発活動に関連する賃借料、減価償却費、配送費などの費用が含まれる販売費及び一般管理費の総額が18.2%も増加し、営業総収入に占める割合も1.9ポイント増加しています。その結果、営業利益率は1.1%のマイナスです。

まだ営業利益率が高い水準にあり危機的な状況にあるとまでは言えませんが、売上を上げるために、新業態を開発しながら出店地域を拡大しつつ、賃料の高い都市部への出店、店舗の大型化などが続けると、営業利益率は益々低下すると予想できます。

これまでの動きから今後の動きで考えられる事柄を予想すると、

  1. 新業態の開発が進み、“Workman Silver”を出してくる。
  2. 未出店市場への拡大を進めれば、沖縄に出店するのであれば次は順当に考えると台湾への初出店。

を挙げておきたいと思います。結果がどうなるかチェックし続けたいと思います。