あちこちにコーヒーショップがあるのはなぜ?~店舗開発競争と新規出店の判断~【“考えてみよう”編】

通りを挟んで同じ名前のコーヒーショップが2件あった。なんであちこちにお店があるのか?新規出店はどう決まっているのか?

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午前11時、中央区銀座ビル前。

カフェチェーンのSコーヒー店舗開発本部マネージャーの初川氏と店舗運営部C地区マネージャーの深田氏が平面図を覗き込み、新規出店の候補地に関する協議をしていた。

初川「入口脇の現況が花屋の区画です。40坪です。」

深田「視認性は最高だな。館内人口はどのくらい?」

初川「約5000人で外資系の銀行が入居しています。」

深田「入口は一つ?」

初川「裏にもう一つありますが、9割方ここを通過します。オフィスなので朝8時台がピークです。今は人通りが少ないですが、昼以降はランチに出る勤め人と、地下鉄出口から銀座方面に向かう買物客も通ります。平日午後3時台のカウントで10分間450人です。」

深田「競合は出ているの?」

初川「飲食店は和食系の重飲食が主体で、個人営業の喫茶店が1件、裏の入口近くにあります。」

深田「経済条件は、どんな感じ?」

初川「今、提示いただいているのが坪あたり4万円です。40坪なので月160万円です。7年の定借で、更新の場合は賃料が上がる可能性があります。」

深田「初川さんの力で坪3万くらいまで行けそうですね(笑)。貸主さんは?」

初川「銀座ビル株式会社さんです。与信は法務部の調査でAAでした。」

深田「さっきより通行量が増えてきたね。近くに競合は?」

初川「地下鉄出口脇にT。銀座方面に2ブロック行くとD。Dは昭和通りに面してもう1件出ています。」

深田「売れてそう?」

初川「朝、昼はテイクアウトのお客様が一時間で80名以上いました。TもDも席数が十分ではなく、周辺の人口を考えるとまだポテンシャルは大きい気がしています。」

深田「周辺人口はどのくらい?」

初川「GIS(地理情報システム)によれば、物件から半径500m内の昼間人口が75,245人。飲食店数は145です。外付けを含めて席数が多くとれるので、十分やっていけると思うのですが。」

深田「そうだね。直近で再開発案件はある?」

初川「3ブロック先の日米ビルが2年後に建て替えで20階建てになります。そこは出店したくS不動産さんにも食い込んでいます。それから3年後に三越百貨店の増床がありあます。成長性があるエリアです。」

深田は地下鉄駅方向に目をやった。交差点先には自社の数寄屋橋店がある。

深田「数寄屋橋店にはどのくらい影響するかな?」

初川「現状、数寄屋橋店で購入いただいて、交差点を渡ってここまで歩いていらっしゃる方も多いと聞いています。アナリスト予測では8%-10%減です。」

深田「オープンが8年前で償却は終わっているから大丈夫だと思うけど、念のためカニバリだけ精査してもらえる?断って競合が出ても落ちるわけだから、ぜひ抑えたい場所だね。2年後に日米ビルに開けたら影響ある?」

初川「同じオフィスビルで動線も異なるので大きくは影響しないと思います。」

深田「その辺も含めて売上予測はどのくらい?」

初川「ビル内から7割、外から3割で計算して月商1100万円でいきたいと考えています。」

深田「視認性確保のため外付けの看板とビル内に出入口がほしいですね。」

初川「先方に提案します。通行量が多いので突出し看板は必須ですね。条件面も交渉しますので改めて打合せお願いします。今日はわざわざありがとうございました。」

考えてみよう!

Q1 同じ企業のコーヒーショップがあちこちにあるのはなぜでしょうか?

Q2 企業は店舗を出店する場所をどのように決めているのでしょうか?

Q3 新規出店に至るまでに、どのような過程があるのでしょうか?

ストーリー理解のために

市街地のコーヒーショップは、商圏が狭いうえ、立地の利便性が重視されるため、複数の店舗で市場をカバーする。

自社の店舗の近隣に出店機会がある場合に出店を見送ると、競合企業に出店機会を与えてしまう。

店舗間の売上のカニバリゼーションをどう防ぐか?

→ ストーリーで学ぶ「店舗開発競争と新規出店の判断」(その2)[解説編]に続く