前回に続き、なぜ店舗開発という仕事が広く理解されていないのか?について考えてみたいと思います。店舗開発担当者が“開発を分かっていない!”と感じる社内の人の多くは、店舗が存在すること、そしてお客さんが実際に来店し店内にいることを前提として、店内環境に属する要素を管理する立場の人です。

ではそうした立場の人の業務と店舗開発の担当者の業務とは何が違うのでしょう?

大雑把にいうと2つの違いがあると思います。

1つは“時間的な視点”です。店内環境に属する要素に関して管理する立場の人は、目先のお客様に的確に対応することを優先的に考えます。天気予報や近隣でのイベント等を考えに入れながら日々の業務の計画を立てます。それに対して店舗開発の担当者は、少なくとも1年以上先の将来の会社の姿の実現のために動いています。どちらが良い悪いを意味しているわけではありませんが、前者は“短期的”な、後者は“長期的”な意思決定・判断に関連しています。

両者のうち、小売・サービス業の経営に関する知見は“前者”を中心に蓄積され、後者に関するものは別個に扱われてきたと言えます。その方法は店舗を大型化したり、品揃えやテナントミックスを自由に変更したりすることが可能な“大箱で、自ら立地創造が可能な小売業”には有効であったように思われます。しかし、そうではない“小型店舗を多数出店する企業”にとってもそれが同様に有効であるとは限らないのです。実際の開店は遠い先の話であったとしても、開店の準備に関する判断は“店舗の目先のお客さんへの対応”と同様にスピードが求められており、店舗運営と店舗開発はいわば“同時並行”で進めなければならないはずなのですが、普通の人はどうしても“別個”に考えてしまうのです。たまたまその時に店舗の業績が良くないと新規出店に後ろ向きになったり、いつでも開けられるという感覚で今は時期が悪い(云々)といった意見を述べたり・・・そうした食い違いが“分かっていない”の一因です。

2つ目は“接する相手”です。店舗開発担当者は、日常的に“店舗のお客様”と直に接することはほとんどありませんが、“別のお客様”と日々接しています。別のお客様とは、社外にいて自社に出店の機会を提供してくれる可能性のある商業施設やディベロッパーなどの企業の担当者です。店舗のお客様に不快な思いをさせると客離れが生じるように、店舗開発担当者も敵に回すと出店機会が奪われ、物件が他社に行ってしまう可能性のある“お客様”を相手に仕事をしています。

店舗開発という仕事は、“社外のシビアな目による自社の評価や勢いのようなものを真っ先に知ることができる仕事”だといって良いと思います。昨今、環境変化のスピードは以前に比べて遥かに速くなり、数年前に勢いがあったブランドがそれを維持し続けるためには大変な努力を要します。自社の新規性、希少性などが低下した中で、以前と同じことをやっていただけでは自社が希望するようなタイプの立地への出店機会は獲得できなくなっている、といったことを社内で最初に痛感させられるのが店舗開発担当者です。しかし、会社に戻り、そんな環境変化に気付かない人達が、出店に関して“夢のようなこと”を言っているのを耳にすると、思わず“分かってない”と言いたくなるのです。

しかし、それを嘆いているだけでは、この“常態”は何も変わらないのです。そろそろ考え方を変えなければなりません。

最近、商業施設に関してよく言われているのは、“どこに行っても同じような店ばかり”ということです。それが意味することの一つには、日本で全国区になったブランドのメンバー(プレーヤー)が長いあいだ大きくは変わっていないことがあるように思います(この点については後日、単一業態で500店舗を超えた企業の共通点というタイトルで触れたいと思います)。毎年多くのプレーヤーが1号店を開店するのも関わらずです。

その原因はの一端は、店舗開発に関する今の“常態”が変わらないことにあると思います。

店舗開発、出店戦略の本質を理解する人の数を増やす努力が必要な時期に来ているのではないでしょうか?(了)