消費者行動調査から読み解く首都圏商業施設の近未来~専門店テナント企業は今後、新規出店の案件をどう判断するべきか?~(2016年3月講演録)

大型商業施設を取り巻く環境変化

講演録【3】からの続き)次に、大型商業施設を取り巻く環境変化を考えてみたいと思います。

よく「環境変化」というと、こういう言葉が出てきます。

  • 自動車の販売不振
  • 少子高齢化
  • インターネットの普及

「自動車の販売不振」であるとか、「若い人の自動車離れ」であるとか、「郊外に人が行かなくなった」であるとか。また、何かと使われるのが「少子高齢化」という話です。それで?で話が終わってしまいますが。あるいは、「インターネットの普及で人々が実店舗で買い物をしなくなった」という話も出てきます。こういったことももちろん根底にはあると思いますが、もっと大きい変化があるのではないでしょうか?

1.首都圏の消費者の移動範囲の拡大

  • 交通インフラの整備(鉄道の新線、道路)
  • 湘南新宿ライン、東急東横線などの延伸
  • 首都圏への通勤圏が拡大→沿線の駅周辺への高層マンションの建設

大型SCを取り巻く環境変化2000年以降の大きな環境変化として、首都圏の消費者の移動の範囲が大きく拡大したことが挙げられます。鉄道の新線が開通しました。例えば、副都心線が開通しました。つくばエクスプレスが開通しました。先月22日には圏央道が全て開通しました。人が首都圏の端から端までを移動しやすくなったのではないかと思います。茨城県つくば市の方が、比較的労をかけずに都心に出てこられるようになりました。圏央道によって、埼玉から神奈川への移動時間が短縮されました。また、湘南新宿ラインや東急東横線など、既存の鉄道網が延伸していきました。例えば、今や横浜の中華街から秩父の方まで一気に行けてしまいます。あるいは、静岡県からなんと乗り継ぎをせずに宇都宮や高崎まで行ける時代になっています。これは非常に重要な環境変化です。それに伴い、その沿線の駅に高層マンションなどの建設が急速に進み、首都圏への通勤圏も拡大しつつあります。例えば、高崎の駅前などは、15年ぐらい前には考えられなかったほど活気のある場所へと変貌しています。

これはかなり重大な環境変化だと思います。行き来が非常に楽になり、結構遠い場所でも気軽に行けるようになってしまい、以前に比べて消費者の行動範囲が拡大しました。

2.商業施設としての“駅”の存在感が増した

それに伴って、商業施設としての駅の魅力というものが増していき、その存在感が非常に高まったのがこの時代です。環境変化の根底に、自動車の販売不振、少子高齢化、インターネットの普及などの要因があることは100も承知ですが、人の移動や買い物の場を見た時に、1番や2番のような環境変化はより重要なのではないでしょうか。

これは私が勝手に言っているわけではなく、2006年ごろからこういう記事も出ています。“台頭!「JR百貨店」~知られざる巨大流通~”。駅が大いに頑張り、商業施設としての駅の存在感が増した時代です。

商業施設としての駅の存在感が増した

【図】「台頭!『JR百貨店』」出所:週刊東洋経済 2006年6月17日

下の図は、赤い星がアトレさん、青い星がルミネさんです。1970年より前はルミネが3店舗、アトレが5店舗と、ターミナル駅に少しある程度でしたが、80年代になるとルミネが頑張って、青い星が増えていきます。90年代にまた増えて、2000年代になると山手線沿線内にアトレの数が増えていきました。この間JRは、エキュート、グランデュオなどの新しい業態をどんどん立ち上げ、他の電鉄も負けじと商業施設を開発し、駅の存在感が非常に高まりました。

商業施設としての駅の存在感が増した(~1970年代) 商業施設としての駅の存在感が増した(1980年代) 商業施設としての駅の存在感が増した(1990年代) 商業施設としての駅の存在感が増した(2000年代)

では、こういう時代背景を踏まえて、今どのような問題が生じているのでしょうか。続きは講演録【5】で。