消費者の「離脱が進みそう」な商業施設に分類された『ビックロ』~その理由と背景を消費者行動データから読み解く~
福徳社では、開業時に話題性の高かった首都圏大型商業施設につき、開業後1年以上を経過した現時点でどの程度消費者の日常的購買行動に定着したかを消費者行動から検証する独自リサーチ『商業施設利用実態調査2015』を実施しました。その結果の概要をお知らせします。
『ビックロ』は、本リサーチの分析結果では、『ダイバーシティ東京』とともに【消費者の「離脱が進みそう」な商業施設】グループに分類されました。利用経験者による利用回数は平均を上回っているものの、リーセンシーが低いことから、以前はよく使われていたが最近リピートが減少傾向にあると考えられるためです。
レポート「商業施設利用実態調査2015【ビックロ編】」では、リサーチ結果データの表やグラフとともに詳しく解説していますが、ここでは概要をご紹介します。
リサーチ結果(サマリー)
- 『ビックロ』は、東京都の20代の若い「勤め人(会社員や公務員)」を中心に人気があり、特に、20代の若い男性や、学生の利用経験率が高い点が、他の調査対象施設と比べてユニークな特色といえます。フリークエンシーや定着率が高いことからも、一定のファン層が繰り返しリピートしていることが考えられます。
- 乗降客数の多い主要ターミナル駅の一つである新宿駅に隣接した立地からか、商圏の広がりも比較的広域です。
- 一方で、リーセンシーが平均より低く、今後利用意向が相対的に低く、足元の東京都を含む1都3県で認知度が下がっている点が課題といえます。
- 利用経験率の増加が頭打ちとなっている点や、20代女性とミドル男性の間で認知度が下がっている点などを参照すると、ニュートライヤーの獲得が一巡し、20代男性や学生を中心としたファン層以外の顧客は若干離脱ぎみの傾向にある可能性が考えられます。
- 開業から3年が経過し、「ビックカメラとユニクロが驚きの初コラボ」というニュース性が、消費者の記憶から薄れはじめたことが考えられます。新たな情報発信を通じた話題性のテコ入れが必要な時期に来ているのかもしれません。
リサーチ結果(詳細)
1.認知度
『ビックロ』を「知っている」と答えた人の割合は、全回答者(1都3県に住む男女合計)の42.4%でした。これは、『ダイバーシティ東京』『酒々井プレミアムアウトレットモール』『三井アウトレットパーク木更津』と同程度の認知度であり、関東でよく知られた商業施設の一つであるといえるでしょう。
- 都県別に見ると、東京都で認知度が高く、千葉県では比較的低かった。
- 性年齢別で見ると、10~40代の女性の間で認知度が高かった。逆に、50~60代男女では低い。全体として、若い人の間でより認知度が高い。
一方で、時間とともに忘却も進む傾向にあります。
- 都県別に見ると、足元の東京都と神奈川県で忘却が進んでいる。
- 性別で見ると、男女ともに忘却が進んでいる。
- 性年齢別で見ると、10~20代女性と30~40代男性の間で忘却が進んでいる。
2.利用経験率
『ビックロ』を「利用したことがある」と答えた人の割合は、全回答者(1都3県に住む男女合計)の21.0%でした。利用経験者は若い人に多く、全体として、若い人に人気の都市型商業施設といえるでしょう。
- 都県別集計では、東京都における利用経験率が高く、神奈川県・千葉県では比較的低い。
- 性別の集計では、利用経験率に有意差はない。性年齢別集計では、10代~20代男性の利用経験率が32.5%と高い。
- 利用経験者のプロフィールの特徴を見ると、男女の比率に有意な差はない。平均年齢は37.1歳で、回答者全体より若い。年代では10~20代の若者の比率が45.2%と回答者全体より高く、逆にシニア層の比率は全体より低い。職業別では、学生比率が14.4%と、調査対象施設中最も高い。「無職・定年退職」の人が全体より低いことは、都市型商業施設共通の特徴である。東京都からの来客が約4割と高く、千葉県からは比較的少ない。
前回調査時(2014年6月)における『ビックロ』利用経験率と2015年6月の結果では、全体としても、県別、性年齢別などのクロス集計でも、昨年からの有意な変化はありませんでした。ニュートライヤーの拡大が一巡しかけている兆候ともとらえられます。
3.利用経験者の利用状況
『ビックロ』は、リピーターが多くフリークエンシーも高いものの、リーセンシーと今後利用意向が下降傾向にあるといえます。
- 『ビックロ』利用経験者の43.3%が「開業直後に行った」と答えている。
- 開業直後利用者の71.1%が、その後リピートしている。
- リピーター比率は59.6%で、3回以上利用者も44.2%を占める。
- 平均利用回数は2.64回で、調査対象施設の平均を上回っている。
- 定着率は25.0%と、調査対象施設平均より高い。
- リーセンシーが10.2ヶ月で調査対象施設の平均より長い。3ヶ月以内利用者が利用経験者の3割強を占めるが、1年以上利用していない人の割合も37.5%にのぼっている。
- 今後利用意向の低い利用経験者の割合が、調査対象施設中で『ダイバーシティ東京』に次いで高い。
4.他の商業施設との併用状況
商業施設利用実態調査2015【ビックロ編】では、『ビックロ』利用経験者のうち、他の調査対象商業施設の利用経験があると答えた人の割合(併用率)詳細に示しています。これを見ると、『ビックロ』が関東広域から集客している様子がよくわかります。
- 『ビックロ』利用経験者のうち、他の調査対象施設の利用経験があると答えた人の割合を集計したところ、広域から集客している『渋谷ヒカリエ』『東京ソラマチ東京スカイツリータウン』 『ダイバーシティ東京』との併用率が高かった。これは、他商業施設利用経験者と同様である。
- ターミナル駅に隣接する『KITTE』の併用率も高かった。
- その他、1都3県の商業施設が幅広く併用されていることから、『ビックロ』のが関東広域から集客していることがうかがえる。
- 今回の調査対象施設以外でよく利用する商業施設を自由回答で尋ねたところ、 『ビックロ』利用経験者の13.5%が『イオンレイクタウン』をよく利用すると答えた。その他、1都3県の商業施設名が数多く挙がった。『ビックロ』の商圏の広さがうかがえる。
- 他の調査対象施設利用経験者にたずねても、 『ビックロ』の利用経験があると答えた人はおおむね3~5割出現し、どの調査対象施設利用経験者においてもまんべんなく高い利用経験率を示した。ターミナル駅に隣接した立地であるためと考えられる。このことからも、 『ビックロ』の商圏の広さがうかがえる。
以上です。ご自身の印象と比べて、いかがでしたか?
これまでの大型商業施設は、施設の規模を大型化し、そのテナントミックスにより魅力を高めれば顧客を遠方からでも集めることができるという考え方に基づき、立地を主体的に創造してきました。
しかし、この首都圏の大型商業施設の利用実態調査を見ると、限られた領域に複数の大型商業施設の開発が進めば、単に施設の規模が大きく、希少性のあるテナントがあるという理由だけで、広域からの集客、更には、顧客の常連化が達成できるとは限らないということが考察できます。
また、開業前はもちろんですが、開業後も新たな情報を継続的に発信していくことが、施設そのものの認知度を維持・向上するために必要であることが考察できます。消費者は記憶した事柄を容易に忘却するものであり、何の刺激もなければ認知度は低下します。周囲に新たな商業施設が次々と開業すれば猶更です。
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