消費者行動調査から読み解く首都圏商業施設の近未来~専門店テナント企業は今後、新規出店の案件をどう判断するべきか?~(2016年3月講演録)
はじめに
小売サービス業において、店舗の成功の鍵は、最後は「立地」です。
テナント企業が商業施設に出店をするときは、相当慎重に判断をされていると思います。立地は、一度決めると変えられません。事前に多大な投資がかかります。
立地がその店の成否を分ける決め手なのですが、近頃は、チェーン店企業(注)が、商業施設出店において、立地を判断する際に考慮すべき基準に変化が生じているのではないか?これまでの考え方が通用しなくなってきているのではないか?というのが、私がここ10年来持ち続けている問題意識です。本日は、このような問題意識を共有させていただき、「これまで」の考え方と「これから」の考え方を対比してお話ししていきます。(注)チェーン店企業とは、小型店舗を多数展開する企業のことです。
まず、(1)「これまで」の立地判断の考え方をお話してから、(2)大型商業施設の開発の推移、(3)最近の環境変化と新たな課題を振り返ってみたいと思います。それをもとに、最後に(4)「これから」の立地判断の考え方をご提案させていただきたいと思います。
立地選定の2つのレベル
企業が日々新しく店舗を開けるチェーン店企業では、立地の選定が日常的に行われていると思います。その「立地選定」には2つのレベルがあります。
1つ目の段階は、エリアの選定です。何々県、何々市、何々区などの自治体レベルでどこに店を開けるかを決める段階です。ここでの判断は、ブランドイメージや企業業績に影響します。
もう一つの段階が、エリア内での立地選定や区画選定です。一つ一つの自治体の中で、その街の中のどこに店を開けるべきかを決める段階です。ここでの判断が、新しく開けた店舗の売り上げ、既存店への影響がを決定づけます。
このように、店舗を開ける時には2つのことを決めています。エリアをどこに開けるかということと、そのエリアの中のどこに開けるかということです。今回は、この2つめの方を中心にお話をさせていただこうと思っています。
これは、ある自治体の簡略化した模型だと思ってください。
ここに駅があります。駅の周りに商業施設やオフィスビルなどがあって、ここの間を人々が徒歩で回遊しています。こういった場所は「中心市街地」などとよばれています。
郊外に出ていくと、例えば高速道路があって、車がインターチェンジを通る、となったら、こういったインターチェンジ付近に商業施設があります。また、どこからも離れたところの、畑や田んぼの真ん中に大型の商業施設がボーンと建っていることもあります。主要な幹線道路のロードサイド沿いに交通量の多いところがあったり、商業施設があったりします。専門店は、商業施設の中や、駅周辺の人が回遊しているところに店舗を開けたり、あるいはロードサイドに駐車場をつけた店舗を開けたりします。どういう組み合わせで店を開けていくかは会社によって異なりますが、いずれにせよ、こういった、人や車をぎゅっと集めてくれるところに店舗を開けていくことになります。
極端に言えば、「大型の商業施設といえば安全である」というのがこれまでの考え方でした。その街で店を開けるとしたら、大型商業施設の中に開ければ外さないだろう、という考え方できたのではないかと思うんです。エリアの集客要因(TG※)すなわち人を集める機能があるものには、駅、オフィスビル、大規模な商業施設といったものが考えられますが、そこに大型商業施設は無条件に含まれていたんですね。※TG: Traffic Generator(交通発生要因)
「大型SCであれば施設の集客力は十分で、テナントとして出店しても安全だろう」「5万平米のイオンモールだったら失敗はしないでしょう」。中心市街地に路面店を開ける時は「近くに百貨店があれば安全だろう」。そういった判断で新規出店を考えることができたのです。
チェーン店企業が出店する小型の店舗は、自分だけの力で人を集めるのは難しいので、大型の施設に集客を依存します。その集客力ある施設として、従来は、大型の商業施設は無条件で入れることができました。しかしながら、そういった理解が、これからは大丈夫なのかな?と思うようになってきました。
これまでは、商業施設は、まわりが田んぼや畑でも、数万平米の面積があれば集客力は大丈夫でしょう、高速道路のインターの近くだったらもっと集客は堅いでしょう、というこういう考え方で来たわけです。「郊外のイオンモールです、面積5万8千平米です、バッチリ集客できます」「そう、では出店候補地1番目に入れましょう」、という判断でも、以前は大丈夫だったわけです。
それでは、大型商業施設の開発はどう進んできたのかを簡単に振り返ってみましょう。続きは講演録その【2】で。