前回の続きで、早速、司馬遼太郎著『新史太閤記』の内容に入ります。

と言いましても、頭から最後までの内容を解説するのではなく、主役の豊臣秀吉を含む戦国武将をチェーン企業の本部、城を店舗に例えて、起こる出来事を多店舗化の過程にダブらせて読んだ時に、個人的にチェックした箇所をいくつかご紹介します。

今回は上巻の190ページ付近です。(ページ数は同書の平成23年7月30日発行の第91刷によるものです。)

“猿”こと秀吉と信長の美濃攻めに関するやりとりがあります。美濃の心臓部である稲葉山城をいきなり攻め落とそうとする信長に対して、秀吉が「それは無理である」と進言します。以下は引用です。

戦場までの距離が長大すぎ、つねに長駆大軍をひきずって美濃へ入り、一撃されればふたたび長い道程を逃げて来なければならない。

敵地に前線基地を置くべきであった。戦は元来、勝敗を一撃できめるべきものではなく(そういう場合も稀にあるが、多くは)、一進一退を重ね、利を少しずつ稼ぎつつ、ついには勝機をつかむべきものである。その一進一退の姿をとるためには、戦場付近に城をつくるべきであった。不利なら退いて城籠もりし、さらに敵情を窺って攻め、その城を本国の大軍の足がかりにもし、敵の大軍を誘いこむ囮にもする。そういう城を一つ持てば、その城の活用次第ではいろんな芸ができるのである。

既存店の集まる地域から距離が遠く離れたエリアにいきなり一店を出店することは、競争相手が支持されている市場の中で、その新店舗に孤独な戦いを強いることに似ています。物流等の効率も低下します。よって新たな市場が魅力的で出店が必要な市場であったとしても、既存の市場からそこまでの距離があまりにも離れている場合、両者の中間地点に店舗を配置するべきことを計画に含める必要があります。

店舗網を面的に拡大する場合には、一店舗が遠く離れて存在する“飛び地”を作ってしまうような状態はなるべく避けるべきでしょう。仮にそのような状態を作ってしまった場合、あるいは、意図的にそのような状態を作る場合は、“飛び地”を面的につなげるような位置に早く追加出店することが求められます。

新たな市場にいきなり入り込むべきか?新たな市場との中間地点を抑えてから新たな市場に入り込むかべきか?これは現在でも意見が別れるところだと思われます。これには、どちらが正解というものは無いと思われます。しかし、出店機会の発生の仕方に応じて複数のパターンの出店計画を練り、柔軟に対応できるよう備えておくことが必要なことは間違いないと言えるでしょう。

続きは次回のブログで。