韓国で店舗数No.1を誇るハンバーガーチェーン「マムズタッチ(MOM’S TOUCH)」。日本でも2024年4月に東京・渋谷へ日本1号店をオープンさせ、店舗展開を進めています。
日経クロストレンド(2026年1月記事)の報道『韓国No.1バーガーチェーンが日本展開に本腰。1000店舗の勝算は?』によると、日本1号店である「渋谷公園通り店」の開業後半年間の平均日販は153万5,000円。年間累計売上は約5億円(月商換算で約4,166万円)に達しているそうで、ファストフード店としては相当売っており、その立ち上がりには勢いを感じます。
しかし、チェーン店出店戦略を長年研究してきた視点からその「今後の展開」を分析すると、“1000店舗の勝算”については懸念点も見えてきます。今回は、マムズタッチの日本展開における3つのリスクと、今後の予測について解説します。
1. エリア選定の「計画性」への疑問
マムズタッチは現在、渋谷・原宿に続き、下北沢、さらには神奈川県茅ヶ崎市、東京都東村山市(秋津)など、すでに5店舗を展開しています。今後の採用情報を見ると、相模大野、新小岩、横浜、大宮といった地名も並んでいます。
一見、1都3県に絞ったドミナント戦略のように見えますが、渋谷・原宿という超広域集客型エリアの次に、茅ヶ崎や秋津に展開している点をみると、エリア選定のロジックや計画性が乏しいのではないかと危惧されます。
2. 地方展開への「時期尚早」な判断
同社はすでに大阪や福岡など、地方都市への展開も視野に入れているようです。しかし、東京で流行ったものが地方で浸透するには明確な「時間差」が存在します。
希少価値があり、行列ができている今のうちに地方へ……という判断かもしれませんが、地方都市での売上が振るわなかった場合、リスクを負うのは加盟店(フランチャイジー)です。地方での不振はブランド全体の勢いを削ぐだけでなく、後述するフランチャイズ体制の崩壊を招く恐れがあります。
3. 「フランチャイズ中心」で1,000店舗は可能か?
最も大きな懸念は、初期段階から「フランチャイズ(FC)主体」での拡大を掲げている点です。同社は2030年までに100店舗、将来的には1,000店舗という目標を掲げています。
しかし、外食産業の歴史を振り返っても、200店舗未満の段階でFC比率が極端に高い状態で成功した例は極めて少数派です。最初からFC中心で展開して200店舗に達したチェーン店はほとんどありません。
FCオーナーは利益に敏感です。
• 売れている間: 喜んで加盟し、協力的な姿勢を見せる。
• 売れなくなった間: 手のひらを返したように本部への態度が厳しくなる。
「家賃を抑えて利益を出す」ことを優先するFC主導の出店が続くと、商業的に魅力のない(時期尚早な)エリアへの出店が加速し、ブランドの「存在感」が薄まってしまいます。
結論:今後の予測と注視すべきポイント
以上の情報を総合すると、マムズタッチの日本展開は以下のようなシナリオを辿るのではないかと予測します。
1. 短期的には増えるが、100店舗手前で頭打ちになる。
2. 不採算店舗の閉店が先行し、店舗網が縮小に転じる。
3. あるいは、店舗数の割にブランド認知が低い「地味な存在」として定着する。
競合がひしめく日本のハンバーガー市場において、FC頼みの急拡大で1,000店舗に到達するのは決して容易ではありません。
「勢い」がある今だからこそ、数字の裏にある立地戦略の妥当性を見極める必要があります。同社が今後どのようなエリアに、どのようなスピードで出店していくのか。引き続きその動向を注視していきたいと思います。
この点については、昨年論文「小売企業における直営店舗数とフランチャイズ店舗数のバランスの現状」で詳説しましたので、ぜひお読みください。[論文全文を読む(杏林大学リポジトリ)]
【論文の要約】外食企業の成長段階と「直営・FC」バランスの真実
1. 「FC頼みの急成長」に潜むリスク
多くの企業は、短期間で店舗網を広げるためにフランチャイズ(FC)を活用します 。しかし、知名度が不十分な初期段階からFC主体で拡大すると、以下のリスクが高まります。
- エリア戦略の妥当性: 市場規模が小さいエリアや、自社の知名度が低い地域へ無理に出店し、不採算店化する 。
- 自社競合の発生: 立地選定をFC任せにすることで、既存店のすぐ近くに新店が出てしまい、売上を食い合う 。
- ブランドの均質化困難: 直営による管理が行き届かず、サービスレベルの低下がブランド全体の評判を落とす 。
2. データが示す「成長の壁」
日本のフードサービス企業253社の分析から、以下の実態が明らかになりました。
- 100店舗の壁: 直営を全く持たずFCのみで展開する企業で、200店舗以上に到達した例は一社も存在しません 。
- 中堅期の慎重さ: 500〜999店舗規模の「成長中間期」のグループでは、FC比率が極端に高い(80%以上)企業は存在せず、直営とのバランスを重視する傾向があります 。
- 直営店という「資産」: 大規模化に成功している企業は、直営店で経営ノウハウを蓄積し、商品開発や効率化を継続的に行っています 。
3. 結論:持続可能な成長のために
短期間の店舗急増は、一時的な話題性には寄与しますが、中長期的には店舗数のコントロールを失うリスク(FCの大量離脱など)を孕んでいます 。 「なぜそこに出すのか」という戦略なきFC展開は、ブランドの寿命を縮める要因になりかねません。店舗網の拡大には、ブランド力(直営での実績)と、それに基づいた緻密なエリア戦略が不可欠であることが、本研究により示唆されています 。
(加藤拓「小売企業における直営店舗数とフランチャイズ店舗数のバランスの現状」2025年)
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