『ランディーズドーナツ』日本一号店オープンへの祝辞にかえて
昨日、久々に海外有名飲食チェーンの日本初出店に関するニュースが流れました。数々の映画やミュージックビデオにも登場する、LAのランドマーク的存在『ランディーズドーナツ』。ログロード代官山に開店した直営1号店には300人が行列し、「開店後約30分で整理券の配布が終了(日テレ)」、スタッフの方の投稿によると「5000個用意したドーナツが開店後15分で完売」したそうで、初日はアメリカ人もびっくりの爆発的セールスを記録したことでしょう。
日本での今後の展開は、 報道によれば、フランチャイズも含め2028年末までに50店舗出店を目指し、イートインのある店舗と、駅ナカなどでのテイクアウト店の出店を考えているそうです。
長く愛されるブランドとして日本市場に定着してほしいとの思いから、当ブログより、出店戦略に関するひとつのアドバイスを贈りたいと思います。
多店舗化の成否は2号店以降のロケーションにかかっている
それは、1号店の成功を前提として、2号店以降をどう出店するかが日本国内での多店舗化の成否を分ける、という点に関するものです。チェーン展開の初期段階において留意すべき最重要ポイントといってよいと思います。
最も危険で、かつ人気ブランドが陥りやすいトラップは、「早すぎる店舗網の広域化」です。
スターバックスやクリスピー・クリーム・ドーナツも、かつて日本市場でこれをやってしまい、リカバリーに苦しんだ時期がありました。粘り抜かれて今がありますが、真似は禁物です。
この失敗を“やってしまった”ブランドで、当初掲げた目標通りに店舗網拡大を実現できなかった例は数多くあります。同じログロード代官山に日本1号店を出店した『カムデンズ ブルースター ドーナツ』は、たった2年で撤退しましたが、「早すぎる店舗網の広域化」をやってしまったケースです。
早すぎる店舗網の広域化で失敗したケース
日本参入後2年で撤退した『カムデンズ ブルースター ドーナツ』は、アメリカで人気のドーナツ店 として一時は行列ができ、当ブログも開店時から注目していました。2017年5月に全店を閉店して現在日本にお店はなく、運営会社もその翌年に清算されています。同ブランドの店舗網拡大の軌跡を振り返ってみたいと思います。下の表は当時の店舗リストです。

まず1号店が同じログロード代官山、その後2号店・3号店・5号店は横浜・新宿ルミネ・渋谷ヒカリエと首都圏に限定して出店していました。欲を言えば1号店と3号店を逆にしたかったところではありますが、ここまでは良い出店だったのではないかと思います。
が、4号店ですでに阪神梅田本店に出店し、関西に進出してしまいました。しかもほぼ同時に心斎橋OPAにも開けています。当時、筆者は東京はもちろん大阪でも実店舗を見ていましたが、まだブランドの知名度も上がっていない状態でこういう出店をしてしまうと、なかなか高い売上は取れなかったのではないかと思います。同時に2店舗開けてしまったので、自社店舗で売上を食い合ったのではないかとも推測できます。
“とどめ”と言っては何ですが、その直後にもう1件心斎橋に路面店を開けてしまったことにより、さらに自社内で売上を食い合ってしまったのではないかと考えられます。
多店舗化序盤の展開はどうするべきか?
東京の1号店が話題になると、他エリアの商業施設から誘致を受けることが多くなります。東京で行列ができたコンテンツは、商業施設側も地域一号店として館に入れたいと、良い経済条件が提示されることもしばしばです。
しかしながら、教科書的にもドミナントを作る重要性が言われている通り、東京での店舗数が一桁台の段階で、大阪、名古屋、福岡などに広域展開をすることは危険であり、避けるべきです。まだ東京での知名度が低い段階で新エリアに進出しても、行列は続かず、安定して売れず、管理コストばかりが高くなりがちです。追加出店しても、顧客基盤が十分に育っていない中では売り上げの食い合い(カニバリ)が起こってしまう。結果、収益の上がらない店舗網が固定化され、閉店やリロケーションもコストがかかるため身動きがとれなくなるといった状況にも陥りかねません。
では、序盤の店舗展開はどうするべきか?
東京都内から出店を開始したならば、その後も新店の開店時には必ず行列ができるような話題性を維持しながら、東京都内の主要な商業施設を“厳選”して出店していくことが推奨されます。東京都外に出店する場合は、東京の北から南に連なっている神奈川・埼玉までに出店の範囲は限定すべきです。
このような状態を保ちながら、まず首都圏での知名度を向上させることが必要となります。そのため、出店速度は序盤は抑えめなぐらいでよいと考えられます。
とはいえ、2016年の開業からたったの4店舗しか展開できていない『カールスジュニア』のように、あまりにも遅すぎるのも問題です。カールスジュニアは商品が好きなので、当ブログでも勝手に出店戦略を考えたりしていたのですが、昨年には別の運営会社に事業譲渡されているようで、いろいろと苦労をされているのかもしれません。出店速度の考え方については他にもポイントがいろいろあり、以前少し書きましたが、また改めてお話したいと思います。