「人口が多ければ出店しやすい」

店舗開発では、基本的にはその通りです。人口5万人より人口20万人の方が、潜在需要は大きい。そのため全国チェーンの出店候補自治体を抽出すると、人口の多い自治体ほど上位に出てきます。

しかし、人口が多ければ店舗網をつくりやすいかというと、必ずしもそうではありません。

今回考えたいのが広島県東広島市です。

2025年国勢調査の速報値では、東広島市の人口は198,496人です。約20万人ですから、自治体人口だけを見ればかなり魅力的な市場に見えます。東広島市公式サイト

ところが、店舗網という視点から見ると少し違う景色が見えてきます。

東広島市は一つの中心からできた都市ではない

東広島市は、1974年に西条町、八本松町、志和町、高屋町の4町が合併して誕生し、2005年にはさらに黒瀬町、福富町、豊栄町、河内町、安芸津町と合併して現在の市域になりました。東広島市公式サイト

つまり現在の「東広島市」という行政区域は、もともと異なる複数の町を束ねて形成されたものです。

現在も、西条、八本松、高屋、黒瀬などにはそれぞれ人口集積があり、市の計画でも、様々な機能が集積する都市拠点と、それらを相互に結ぶ「多極ネットワーク型」の都市構造が意識されています。東広島市公式サイト

もちろん中心性が最も強いのは西条地区でしょう。

しかし、人口約20万人が一つのまとまった市街地に集中しているわけではありません。

ここが店舗開発では重要です。

20万人なら2店舗、とはならない

仮に、あるチェーンの標準的な成立人口が10万人だとします。

単純計算なら、東広島市約20万人 ÷ 1店舗10万人 = 「2店舗出店できる」となります。

ところが、この計算には人口の位置が入っていません。

例えば西条地区に一店舗出したとして、その店舗が黒瀬、高屋、八本松、安芸津まで同じ強さで需要を取れるでしょうか。難しいでしょう。

距離があります。道路の方向も違います。日常の生活圏も完全には同じではありません。

では、それぞれに店舗を出せばよいのでしょうか。今度は一つ一つの人口集積が、標準店舗を成立させるには小さくなる可能性があります。

ここに、「自治体全体では十分な人口があるのに、店舗網を組みにくい」という状態が生まれます。

一店舗では足りない。しかし複数店舗では多すぎる

これはチェーン企業にとって意外に難しい市場です。

一店舗だけ出す。すると自治体人口20万人のうち、実際にカバーできるのは一部だけです。

しかし3店舗、4店舗と出す。すると各店の商圏人口が小さくなり、自社店舗間のカニバリも考えなければならなくなります。

つまり、市場規模と、市場をカバーするのに必要な店舗数が一致しません。

この問題は、自治体人口ランキングからは見えません。20万人という数字だけを見れば「良い市場」に見えます。

しかし店舗網から見れば、「1店舗で取れる20万人市場」と「3店舗必要な20万人市場」では、まったく意味が違います。

「成立人口」と「カバー人口」を分けて考える

店舗開発では、一店舗の成立人口を考えることがあります。

例えば、「この業態なら商圏人口5万人必要」「このフォーマットなら10万人必要」といった考え方です。

しかし今後は、それだけではなく、「その地域をカバーするために何店舗必要か」も同時に考えた方がよいと思います。

例えば、人口20万人に対して必要店舗数が1店なら、一店舗当たり20万人をカバーできます。必要店舗数が4店なら、一店舗当たりに対応する市場は単純平均で5万人です。

総人口が同じでも、出店ポテンシャルは違います。

そこで、市場規模 ÷ 市場カバーに必要な店舗数という発想を加えると、地域の見方が変わってきます。

これはまだ非常に単純化した考え方ですが、「人口が多いのになぜ出店しにくいのか」を説明する一つの手掛かりになります。

チェーン企業は市場を「面」で取る

大型ショッピングセンターなどであれば、一つの巨大施設を置き、広域から顧客を集めるという考え方ができます。

しかし飲食、サービス、小型小売などのチェーン企業は違います。一店舗の商圏が比較的小さいため、複数店舗で市場を覆う必要があります。

そのため重要なのは、「この自治体に出店できるか」だけではありません。

「この地域に何店舗置けば、市場を効率よくカバーできるのか」です。

そして、その店舗数が多くなりすぎる地域は、人口が多くてもチェーンにとって必ずしも効率的ではありません。

人口ランキングから「店舗網との相性」へ

人口が多い。所得が高い。競合が少ない。こうした指標は今後も重要です。

ただ、それにもう一つ、市場の形が自社の店舗網と合うかという視点を加えたいところです。

人口がまとまっている地域に向くチェーンもあります。小さな需要核が点在していても成立するチェーンもあります。大型店なら難しくても、小型フォーマットなら成立することもあります。

つまり、同じ市場でもチェーンによって評価が変わります。

ここから次の問題につながります。

全国チェーンの店舗が少ない地域を見ると、「市場性が低い」と判断したくなります。しかし、それは本当でしょうか。

最終回は沖縄県を例に、「全国チェーンに向かない市場」と「商売にならない市場」は同じではないという問題を考えます。