■ 新連載!「新しいエリア戦略」プロローグ ■ 第1回の記事はこちら
店舗開発では、「どのエリアに出店するか」を考えることが欠かせません。
では、その「エリア」とは、どこからどこまでを指すのでしょうか。

東京都、神奈川県といった都道府県でしょうか。
あるいは、市区町村でしょうか。
駅を中心とした商圏でしょうか。

実務では当たり前のように「エリア」という言葉を使っていますが、改めて考えてみると、その定義は意外に曖昧です。

私自身、店舗網や出店戦略について長く考えてきましたが、最近、この「エリアの捉え方」そのものを見直す必要があるのではないかと感じています。

きっかけは、自治体単位で全国を見ていると、どうしても説明しにくい地域が出てくることでした。

かつては「地域流通経済圏」という便利な単位があった

かつて、朝日新聞出版から『民力』という地域データが刊行されていました。
地域を比較する際に便利な資料でしたが、残念なことに、2015年版を最後に刊行が終了しています。

『民力』をここで持ち出したのには理由があります。当時の『民力』では、自治体を単純に区切るのではなく、通勤・通学、購買行動、人口移動など地域間のつながりをもとにした「地域流通経済圏」という非常に便利なエリア区分が整理されていました。

弊社でも、この地域区分と豊富な地域データが収録されたCD-ROM版を毎年購入し、出店戦略の実務で重宝していました。残念ながら現在は更新されていませんが、考え方そのものは今でも有用で、古いデータであることを承知のうえで、現在でも参考にすることがあります。

その後も、国勢調査の「大都市圏・都市圏」や「都市雇用圏」など、行政区域を越えて地域を捉える区分はあります。しかし、購買行動や地域間のつながりまで考慮し、全国を出店戦略に使いやすい形で整理した『地域流通経済圏』に、そのまま代わるものは見当たりません。これも、私たちが改めて「新しいエリア分類」を考え始めた理由の一つです。

民力が消えて残念、という話は、こちらの記事に詳しく書きました。

自治体は便利だが、市場そのものではない

さて、現在、全国を共通の尺度で比較しようとすると、市区町村などの自治体を単位に考えるのが最も扱いやすい方法の一つです。人口、世帯数、所得、事業所数など、多くの公的統計が自治体単位で整備されているからです。

自治体人口5万人。自治体人口10万人。人口増加率が何%。
こうした数字を並べれば、全国の地域を比較することができます。

店舗開発でも、
「人口10万人以上の市を候補にする」
「人口5万人未満は原則として出店対象外とする」
といった基準を設けることがあります。

もちろん、こうした考え方が間違っているわけではありません。
人口は市場規模を考えるうえで重要な基礎データです。

ただし、ここに一つ違和感があります。

自治体人口は、本当にそのまま市場規模と考えてよいのでしょうか。

人口5万人でも、実際には10万人市場かもしれない

仮に、人口5万人の自治体があったとします。

自社の出店基準が「人口8万人以上」であれば、この自治体は候補から外れるでしょう。
ところが、そのすぐ隣にも人口5万人の自治体があり、二つの自治体の市街地が連続していたらどうでしょうか。

道路を走っていても、どこから隣の市になったのかほとんど分からない。
住民も日常的に自治体境界を越えて買い物や通勤、通学をしている。

そうであれば、消費者にとっては二つの自治体ではなく、実質的に10万人規模の一つの生活圏として機能している可能性があります。

自治体単位だけを見ていれば、5万人+5万人です。

しかし店舗開発の視点では、10万人の連続した一つの市場として考えた方が自然かもしれません。

反対のことも起こります。

人口10万人の自治体だから十分な市場だと思っていても、人口が市内の複数箇所に分散している場合があります。

一つの中心市街地に10万人が集まっているのではなく、
3万人、3万人、2万人、2万人
というように複数の人口集積が離れて存在している。

この場合、自治体全体では10万人でも、一店舗でその需要をすべてカバーすることは難しくなります。

人口10万人だから一店舗出せる。必ずしも、そう単純ではありません。

人口の「量」だけでなく「形」を見る

もちろん、人口は、これからもエリア戦略の基礎になるデータです。

問題は、その人口がどのような形で存在しているかです。

どこに人口が集まっているのか。
人口集積同士はつながっているのか。
その間に山や川などの分断があるのか。
どの道路を使って移動しているのか。
どの都市へ買い物や通勤で流れているのか。
反対に、周辺のどの地域から人を吸引しているのか。

こうしたことを考えなければ、市場の実態は見えてきません。

言い換えれば、自治体人口は市場の「量」を示しても、市場の「構造」までは示してくれないということです。

私は最近、この違いが出店戦略を考えるうえで非常に重要なのではないかと考えています。

「行政区域」と「戦略エリア」は同じなのか

自治体という単位は、行政上必要なものです。統計を集計する単位としても非常に便利です。

しかし、消費者は市境を意識して行動しているわけではありません。
道路を一本渡れば隣の市だからといって、そこで突然買い物行動が変わるわけでもありません。
逆に、一つの市の中だからといって、すべての地域が同じ生活圏に属しているとも限りません。

そう考えると、自治体は非常に重要な分析単位ではありますが、必ずしもそのまま店舗網を考えるための戦略単位ではないことになります。

ここに、今回この連載を始める理由があります。

「どの自治体に出すか」だけでは足りない

従来のエリア戦略では、
人口○万人以上、所得○円以上、競合○店舗以下
といった条件を設定し、それを満たす自治体を探す方法がよく使われます。
全国を比較し、候補地域を絞り込むという意味では合理的です。

しかし、多店舗展開を考える場合、本当に知りたいのは「良い自治体はどこか」だけではありません。

例えば、ある地域へ進出するとします。

一店舗で市場をほぼカバーできるのか。
二店舗必要なのか。
三店舗以上置かなければ市場を取り切れないのか。
隣の自治体と一体で店舗網を考えるべきなのか。
それとも自治体内部を複数の市場に分けるべきなのか。
さらに、その次はどの地域へ広げるべきなのか。

こうした問題は、自治体ランキングだけでは答えが出ません。

店舗開発で考えるべきなのは、単に、「どの自治体に出店するか」ではなく、「どのような市場構造に、どのような店舗網を置くか」です。

「新しいエリア戦略」を整理している

福徳社では現在、全国の自治体データ、人口分布、地域間のつながりなどをもとに、店舗開発のための新しいエリアの捉え方を整理しています。

これは、日本全国を同じ形に機械的に区切れば完成するものではありません。

大都市圏があります。
独立した地方中心都市があります。
複数の自治体が連続して一つの市場をつくる地域があります。
一つの自治体の中に、複数の市場が存在する場合もあります。

地域ごとに事情は違います。したがって、最終的にはケースごとに判断しなければなりません。
ただし、「ケースバイケースだから、その都度考えればよい」ということでもありません。

どこに人口が集まっているのか。
地域同士がどの程度つながっているのか。
どこで市場が切れているのか。
どこが周辺地域を吸引しているのか。
その市場をカバーするには何店舗必要なのか。

こうした点を共通の考え方で整理できれば、出店戦略はかなり見えやすくなるはずです。

最近、これまで分析してきたデータを改めて見直しながら、この整理を進めていますが、考えれば考えるほど、これまで自治体という枠に引っ張られすぎていたのではないかと思う場面があります。

「どこに出すか」から「どう市場を捉え、どう広げるか」へ

店舗開発では、どうしても目の前の物件に意識が向きます。

「この物件は出店できるか」という判断はもちろん重要です。

しかし、その前には、「この地域に出店する意味は何か」という判断があります。

さらにその前には、「そもそも、この地域をどのような市場として捉えるのか」という問題があります。

市場の捉え方が変われば、出店候補地も変わります。必要な店舗数も変わります。出店順序も変わります。場合によっては、標準的な店舗フォーマットそのものを変える必要も出てくるでしょう。

つまり、店舗網を考えるためには、その土台となる「エリア」の定義から考え直す必要があります。

この連載では、「人口10万人の市は、本当に同じ市場なのか」というところから始め、行政区域と市場の境界、都市同士の接続、チェーンが出店しやすい市場とそうでない市場の違いなどを順番に考えていきます。

最終的には、自治体を選ぶ出店戦略から、市場構造を読み、店舗網を設計する出店戦略へ。
その考え方を「新しいエリア戦略」として整理していきたいと思います。

次回は、その第一歩として、なぜ同じ「人口10万人の市」でも、出店する意味が全く違うのか。
人口規模と市場構造の違いから考えてみます。

続きは次回の記事で。