今週の「週刊 店舗開発クリップ」では、最近急速に存在感を高めている麻辣湯を取り上げました。
麻辣湯といえば、少し前までは「ガチ中華」や辛いもの好きの人が知っている料理、という印象が強かったかもしれません。しかし最近では、専門店の出店が増え、大手外食チェーンや食品メーカーも関連商品を出すなど、かなり広い層に知られるようになってきました。
ただし、店舗開発の視点で注目すべきは、まだ国内に100店舗を超えるような圧倒的チェーンが存在しない中で、どの企業がどの順番で、どの立地を押さえにいくのか、という点です。
つまり、麻辣湯業態はすでにブーム化しているように見えながら、店舗網としてはまだ序盤戦にあります。ここに、店舗開発上の面白さがあります。
日本市場をつくったのは七宝麻辣湯
日本で麻辣湯を広げてきた代表的な存在が、七宝麻辣湯です。
七宝麻辣湯は2007年に渋谷で1号店を開業しました。当初は「麻辣湯」という言葉自体が日本ではほとんど知られておらず、「薬膳スープ春雨専門店」という位置づけで市場を開拓してきたブランドです。
その後、激辛ブーム、ガチ中華ブーム、SNSによる情報拡散、そして健康感・カスタマイズ性への支持が重なり、ここ数年で急速に店舗数を伸ばしてきました。
現在は、首都圏を中心に全国へ店舗網を広げています。東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県といった一都三県に厚みを持ちながら、北海道、宮城、愛知、大阪、兵庫、福岡などにも展開しています。
先行者として市場をつくってきた点は大きな強みです。一方で、店舗開発の視点では、やや気になる点もあります。
それは、店舗数がまだ数十店舗規模の段階で、すでに店舗網が全国に散らばり始めていることです。
麻辣湯は、1店舗あたりの商圏がそれほど広い業態ではありません。店舗サイズも比較的小さく、日常的・反復的に利用されることで成り立つ側面があります。このような業態では、単に「未出店県に出す」ことよりも、特定エリアで密度を高め、ブランド認知と利用機会を積み上げることが重要になります。
全国に点在する店舗網は、一見すると広がりがあるように見えます。しかし、密度が十分でない段階でエリアを広げすぎると、物流、人材、店舗管理、販促の効率が下がりやすくなります。出店戦略上は、早すぎる広域化になっていないかを慎重に見る必要があるのではないでしょうか。
中国勢はなぜ一等地を取りに来るのか
一方で、ここに追い上げてきているのが中国発のチェーンです。代表的なのが、楊國福麻辣湯と張亮麻辣湯です。
両社はいずれも中国で大規模に展開しているブランドで、日本でも店舗を増やし始めています。日本での運営は、それぞれ日本国内の法人が担っており、中国本部のブランド力や商品供給力と、日本市場を理解する運営会社が組み合わさって展開している構図と考えられます。
ここで重要なのは、中国勢の強みが単なる「本場感」だけではないことです。
中国系チェーンが日本に出店する場合、最初から一定の顧客基盤を持っていることがあります。池袋、高田馬場、新大久保、西川口など、中国人コミュニティとの親和性が高いエリアでは、在日中国人の需要を取り込むことができます。その後、日本人のガチ中華ファン、辛いもの好き、若年層へと顧客層が広がっていく流れが生まれます。
これは、海外ブランドが日本市場に入る際の大きなアドバンテージです。
さらに、中国勢にはもう一つの特徴があります。それは、出店に対するスピード感と好立地志向の強さです。
中国市場は日本の約10倍の人口規模があります。競争も激しく、ある業態が伸びると類似企業が一気に増えます。そのため、成長機会が見えた時に、主要都市の中心地や目立つ立地を早期に押さえる発想が強いと考えられます。
日本企業から見ると「まだ業態が定着していないのに、なぜ銀座や池袋のような一等地に出すのか」と感じるかもしれません。しかし、中国勢にとっては、好立地そのものが広告であり、ブランドの市場プレゼンスを高める投資でもあります。
これは店舗開発上、非常に重要な視点です。
楊國福はプレミアム、張亮は大衆化か
楊國福麻辣湯と張亮麻辣湯を比べると、同じ中国発の麻辣湯チェーンでありながら、出店の方向性には違いが見られます。
楊國福麻辣湯は、池袋、高田馬場、新大久保といった中国人コミュニティとの接点が強いエリアから始まり、近年は銀座など都市中心部への出店も進めています。中国ではB級グルメ的な存在である麻辣湯を、日本ではややプレミアム感のある外食体験として見せようとしているようにも見えます。
一方、張亮麻辣湯は、より大衆化を意識している印象があります。関東・関西を中心に出店を増やし、ショッピングセンターへの出店やフランチャイズ展開にも積極的です。2026年までに国内50店舗体制を目指すという情報も出ています。
この違いは、今後の店舗網形成に大きく影響するはずです。
楊國福が都市中心部でブランドの格をつくり、その後に広げていく戦略だとすれば、張亮はより早く大衆市場を取りにいく戦略と見ることができます。どちらが正しいというよりも、狙う顧客、出店立地、店舗フォーマット、FC展開のスピードが一貫しているかどうかが問われます。
麻辣湯はまだ「勝者未定」の業態である
現時点で見る限り、麻辣湯業態にはまだ圧倒的な勝者はいません。
七宝麻辣湯は先行者であり、店舗数でもリードしています。しかし、店舗網の密度や主要立地でのプレゼンスという点では、中国勢の追い上げを受けています。
楊國福麻辣湯は、都市中心部での存在感を高めつつあります。銀座や池袋のような立地に出店することで、「あのブランドを見たことがある」という認知を早く形成しようとしているように見えます。
張亮麻辣湯は、FCを活用しながら店舗数を増やす可能性があります。ただし、まだ麻辣湯そのものが全国的に定着したとは言い切れない段階で、大衆化路線を急ぎすぎると、立地のばらつきや店舗運営品質の差が出るリスクもあります。
店舗開発の実務では、ここが非常に重要です。
新しい業態では、出店スピードが遅すぎても機会を逃します。しかし、速すぎても店舗網が粗くなり、ブランドの体験品質や管理効率が崩れます。特にFCを活用する場合は、加盟店の出店意欲に引っ張られて、本来押さえるべきエリア順序が崩れることがあります。
「どこに出すか」以上に、「どう広げるか」が問われる局面です。
本格的な出店競争はこれから
麻辣湯は、すでに流行しているように見えます。しかし、店舗網という視点で見ると、本格的な出店競争はまだこれからです。
今後は、七宝麻辣湯が先行者としてリードを守るのか、楊國福麻辣湯や張亮麻辣湯といった中国勢が主要立地を押さえて逆転していくのか、あるいは日本企業がアレンジ型の麻辣湯業態で新たに参入してくるのかが注目されます。
ただし、単に店舗数が増えればよいわけではありません。どのエリアで市場浸透を図るのか。どのタイミングで市場拡大に移るのか。旗艦店、商業施設、駅前、繁華街、住宅地をどう組み合わせるのか。これらを店舗網全体で設計できるかどうかが、長期的な勝敗を分けるのではないでしょうか。
麻辣湯の出店競争は、単なる外食トレンドではありません。
新業態が日本市場に定着していく過程で、先行者、海外チェーン、FC展開、好立地獲得、ドミナント形成がどのように絡み合うのかを観察できる、非常に興味深いケースです。
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