生成AIの普及が本格化しています。
文章を作る。資料を要約する。比較表を作る。会議の論点を整理する。アイデアを出す。チェックリストを作る。
こうした作業は、以前よりもかなり速くできるようになりました。
これは、特定の業界だけで起きている変化ではありません。営業、企画、マーケティング、人事、教育、コンサルティング、研究、事務管理など、多くの業務分野で、仕事の進め方そのものが見直され始めています。
もちろん、生成AIを使えば、すべての仕事が自動化されるわけではありません。
現場で確認しなければならないことがあります。
取引先や社内の関係者と交渉しなければならないこともあります。
経験がなければ気づきにくいこともあります。
最終的には、人間が責任を持って決めなければならないことも残ります。
それでも、一つはっきりしていることがあります。
これまで人間の価値だと思われていた作業の一部が、生成AIによって支援されるようになるということです。
そうなると、私たちは改めて考えなければなりません。
自分の仕事の価値は、どこにあるのか。
これまでの仕事のやり方のままでよいのか。
AIに任せられる作業が増えたとき、人間は何を考えるべきなのか。
この問いは、出店・店舗開発の仕事にもそのまま当てはまります。
福徳社では現在、生成AIの普及を前提として、店舗開発業務をどのように見直すべきかを整理しています。今回から、その考え方を何回かに分けて共有していきたいと思います。
仕事の価値は、作業の速さだけでは測れなくなる
生成AI時代の仕事については、さまざまな分野で議論されています。
そこで共通して指摘されているのは、単に作業時間が短縮されるということではありません。
- 情報を集めるだけでは、価値になりにくくなる。
- 文章を整えるだけでは、差がつきにくくなる。
- 資料を速く作ること自体の価値は、相対的に下がる。
- AIに適切な指示を出す力が重要になる。
- 問いを立てる力が重要になる。
- 判断基準を持つ人の価値が高まる。
- AIの回答を疑いながら使う力が必要になる。
- 作業者ではなく、仕事の設計者になる必要がある。
こうした変化を考えると、生成AIの普及は、単なる「業務効率化」の話ではないことが分かります。
むしろ重要なのは、作業が速くなることによって、人間に求められる役割が変わるという点です。
これまでは、情報を集めること、整理すること、資料にまとめることに、多くの時間が使われてきました。
もちろん、これらの作業が不要になるわけではありません。
しかし、その一部をAIが支援するようになると、人間には、その先の仕事が強く求められるようになります。
何を考えるべきか。どの観点から見るべきか。
どの情報を重視すべきか。どの前提を疑うべきか。
何を判断基準にして決めるべきか。
私は、この変化を単なる「作業の効率化」ではなく、判断の高度化として捉える必要があると考えています。
店舗開発には、多くの情報処理業務がある
店舗開発の仕事には、多くの情報処理が含まれています。
- 物件概要書を読む。
- 賃貸条件を整理する。
- 商圏情報を確認する。
- 競合店舗を調査する。
- 現地調査のメモをまとめる。
- 複数の候補物件を比較する。
- 出店稟議書を書く。
- 出店会議の資料を作る。
- 関係部署への説明資料を整える。
こうした作業の多くは、生成AIによって支援されやすい領域です。
たとえば、物件概要書から所在地、面積、賃料、契約期間、引渡条件などを抜き出し、一覧表に整理することはできるでしょう。
商圏データや現地調査メモの要約、競合店舗の分類、候補物件の比較、出店会議で確認すべき論点の洗い出しも、以前より短時間でできるようになると考えられます。
出店稟議書の文章を整えることもできます。会議の議事録から、決定事項や未解決事項を抽出することもできます。
では、こうした作業がAIによって効率化されれば、店舗開発担当者の価値は下がってしまうのでしょうか。
私は、そうは思いません。
ただし、従来型の仕事の進め方を続けているだけでは、価値を出しにくくなる可能性はあります。
物件情報を集めるだけの人。
資料を作るだけの人。
過去の基準に沿って候補物件を処理するだけの人。
売上予測で示された数字だけを見て判断する人。
こうした業務は、生成AIによって差がつきにくくなっていく可能性があります。
AIが店舗開発担当者に代わるというよりも、AIを使って情報を処理するだけでは、店舗開発担当者として十分な価値を示しにくくなるということです。
これから差がつくのは「問いを立てる力」
これからの店舗開発担当者に、より強く求められるのは、問いを立てる力ではないでしょうか。
たとえば、店舗開発では、通常、次のような問いを考えます。
- この物件は売れるか。
- この商圏に需要はあるか。
- この賃料を吸収できるか。
- 競合店舗に勝てるか。
- 投資回収は可能か。
これらは今後も重要です。
しかし、生成AIによって情報整理や比較が容易になるほど、人間には、もう一段先の問いが求められます。
この物件は売れるか。
それだけではなく、
自社のブランドは、ここに出るべきか。
この商圏に需要はあるか。
それだけではなく、
この場所に出ることで、ブランドはどのように見えるか。
この区画は契約できるか。
それだけではなく、
この出店は、店舗網全体の中でどのような役割を持つのか。
この店は短期的に成立するか。
それだけではなく、
うまくいかなかったときに、移転、退店、業態転換の選択肢は残るのか。
売上予測の数字は妥当か。
それだけではなく、
その予測は、どのような前提に基づいているのか。
競合店舗はいくつあるか。
それだけではなく、
顧客の時間、財布、目的を奪い合っている相手は本当に誰なのか。
AIは、与えられた情報を整理し、選択肢を示し、文章にまとめることはできます。
しかし、何を問題として捉えるべきか、どの問いを優先するべきかは、自動的には決まりません。
問いの立て方が変われば、集める情報も変わります。
比較する対象も変わります。
現地調査で見る場所も変わります。
会議で議論すべき内容も変わります。
だからこそ、生成AI時代には、作業の速さ以上に、問いの質が重要になるのだと思います。
店舗開発は「売れる場所を探す仕事」だけではない
店舗開発は、一般的には「売れる場所を探し、物件を契約し、店舗を開業する仕事」と理解されることが多いように思います。
もちろん、売れる場所を見つけることは重要です。
しかし、チェーン企業が多店舗化していくためには、個別物件の売上だけを見ていては不十分です。
- ブランドをどの市場に広げるのか。
- どの街から出店を始めるのか。
- どの順番でエリアを広げるのか。
- 一つの地域に、どの程度の店舗密度をつくるのか。
- 既存店とのカニバリをどこまで許容するのか。
- 店舗網全体として市場をどのようにカバーするのか。
こうしたことを考える必要があります。
つまり、店舗開発とは、単に「どこに出すか」を決める仕事ではありません。
ブランドを、どの場所に、どの順番で、どのように広げていくかを考える仕事です。
生成AIによって個別物件の情報処理が効率化されるほど、店舗開発担当者には、この店舗網全体を見る視点が求められるようになると考えられます。
物件を処理する担当者から、店舗網を設計する担当者へ。
これが、生成AI時代に起きる店舗開発業務の大きな変化の一つではないでしょうか。
生成AI時代に見直したい10の論点
では、生成AI時代に、出店・店舗開発業務の何を見直す必要があるのでしょうか。
福徳社では、現時点で、少なくとも次の10項目を検討する必要があると考えています。
- 物件情報の整理は、AIにどこまで任せられるか
- 商圏分析は、データを見る仕事から仮説を立てる仕事へどう変わるか
- 競合調査では、競合リストよりも競合の定義が重要になるのではないか
- 現地調査メモを、個人の記録から会社の知識資産にできないか
- 出店稟議書では、きれいな文章よりも判断論点が重要ではないか
- 「ここなら売れる」と「ここに出るべき」を分けて考える必要があるのではないか
- 店舗外観を、入店前の顧客判断という視点から見直せないか
- 店舗網を、単なる店舗一覧ではなくブランドメディアとして捉えられないか
- 退店、移転、業態転換の選択肢まで含めて出店判断を設計できないか
- 店舗開発担当者は、物件担当者から店舗網戦略担当者へ進化する必要があるのではないか
これらは、生成AIの操作方法を説明するだけの論点ではありません。
AIに何を任せるのか。
人間は何を判断するのか。
会社として、どのような知識を蓄積するのか。
店舗開発という仕事を、どこまで再設計するのか。
そのような、店舗開発業務そのものに関わる問題です。
生成AI時代の店舗開発は、判断の高度化である
生成AIは、店舗開発担当者の仕事をなくすものではありません。
しかし、店舗開発担当者の仕事の中身を変える可能性があります。
これから差がつくのは、物件情報をどれだけ速く処理できるかだけではありません。
資料をどれだけ早く作れるかでもありません。
商圏情報をどれだけ多く集められるかでもありません。
整った稟議書を書けるかどうかだけでもありません。
重要なのは、何を問い、どのような基準で判断するかです。
- この店は売れるか。
- このブランドは、ここに出るべきか。
- この場所で、ブランドはどう見えるか。
- この出店は、ブランドを広げるのか、薄めるのか。
- この店舗は、店舗網全体の中でどのような役割を持つのか。
- うまくいかなかったとき、どのような選択肢が残るのか。
- AIに何を任せ、人間が何を判断するのか。
生成AI時代の店舗開発は、作業の速さではなく、こうした問いの質によって差がつくようになると考えられます。
次回は、物件概要書、商圏分析、競合調査など、店舗開発業務の入口にある情報収集と分析について、生成AIに何を任せることができ、人間は何を考えるべきなのかを検討します。