前回概観したように、生成AI時代の店舗開発では、物件情報の整理、商圏分析、競合調査といった業務が大きく変わる可能性があります。

これらは、店舗開発の入口にある仕事です。

物件概要書を読む。
候補物件の条件を比較する。
商圏人口や世帯数を確認する。
周辺の競合店舗を調べる。

従来は、こうした情報を集め、表にまとめ、関係者に説明できる形に整えるまでに、多くの時間がかかっていました。
生成AIを活用すれば、この作業時間はかなり短縮できるでしょう。

しかし、ここで注意したいことがあります。

情報整理が速くなることと、出店判断の質が高まることは同じではありません。
むしろ、情報を簡単に集められるようになるほど、

何のために情報を見るのか。
どの数字を重視するのか。
どのような仮説を検証するのか。

という、分析の前段階が重要になります。

今回は、店舗開発業務の入口にある「物件情報」「商圏分析」「競合調査」の3つについて、AIに何を任せ、人間は何を考えるべきかを整理します。

物件概要書の整理はAIに任せやすい

店舗開発担当者は、日々、多くの物件情報を確認します。

所在地、最寄り駅、建物名称、階数、区画面積、賃料、共益費、敷金、契約期間、引渡時期、設備容量、営業時間、工事区分など、確認すべき項目は少なくありません。

これらの情報を物件概要書から抜き出し、一定の形式にまとめる作業は、生成AIが比較的得意とする領域です。

複数の物件概要書から必要な項目を抽出し、比較表を作る。
記載されていない項目を洗い出す。
物件ごとの条件差を整理する。
会議で確認すべき事項を一覧にする。

このような使い方は、今後、店舗開発業務の標準になっていく可能性があります。

ただし、物件概要書に書かれている内容を整理できたとしても、その条件が自社にとって何を意味するかまでは、自動的に決まるわけではありません。

たとえば、賃料が相場より低い物件があったとします。
それは、条件のよい物件なのでしょうか。
あるいは、視認性が低い、導線が弱い、建物の認知がない、周辺の集客力が低下しているなど、賃料が低い理由があるのでしょうか。

契約期間が長いことも、必ずしも有利とは限りません。
長期間、安定して営業できる一方で、売上が想定を下回った場合に撤退しにくくなる可能性があります。
設備容量が十分に見えても、将来の業態転換には対応できないかもしれません。

AIは、条件を整理することはできます。
しかし、その条件の背景や将来のリスクを読み解くには、店舗開発担当者の経験と判断が必要です。

物件情報を読む仕事は、単に項目を転記する仕事から、
「この条件は、将来どのような制約になるのか」
を考える仕事へ変わっていくのではないでしょうか。

商圏分析は、データを見る仕事から仮説を立てる仕事へ

商圏分析では、人口、世帯数、昼間人口、所得、年齢構成、駅乗降客数、通行量など、さまざまなデータを確認します。
これらのデータを整理し、地域の特徴を文章にまとめる作業も、生成AIによって効率化しやすい部分です。

たとえば、
「この地域は30~40代の人口構成比が高い」
「単身世帯が多い」
「昼間人口が夜間人口を上回っている」
「駅利用者数が増加傾向にある」
といった特徴は、データから比較的容易に要約できます。

しかし、商圏分析の目的は、地域の説明文を作ることではありません。

本来考えるべきことは、
その場所で、誰が、なぜ、どのように自社の店舗を利用するのか
ということです。

人口が多いから売れる。
駅の乗降客数が多いから売れる。
所得が高いから売れる。

このような単純な関係は、実際には成り立たないことがあります。

人口が多くても、店舗の前を通るとは限りません。
駅利用者が多くても、乗換客ばかりで街に滞在しないかもしれません。
所得が高くても、自社の商品やサービスに支出するとは限りません。

商圏データは、答えではありません。
商圏を理解するための材料です。

重要なのは、データを見たうえで、利用場面を仮説として描くことです。

平日の通勤途中に利用するのか。
休日に家族で利用するのか。
買物のついでに立ち寄るのか。
予約して目的来店するのか。
日常的に繰り返し利用するのか。
特別な日に利用するのか。

同じ人口規模の商圏でも、利用場面が異なれば、成立する業態や立地は変わります。

生成AIによって商圏データの要約が速くなるほど、店舗開発担当者には、データを読む力以上に、
顧客行動の仮説を立てる力
が求められると考えられます。

AIがもっともらしい商圏説明を作る危険

生成AIを商圏分析に使うと、もっともらしい文章が短時間で作成されます。

「周辺にはファミリー世帯が多く、生活利便性の高いエリアです」
「駅利用者を中心とした安定した需要が期待できます」
「競合が少なく、新規出店の余地があると考えられます」

こうした文章は、出店稟議書や提案書でよく見かけます。

しかし、文章として自然であることと、分析として正しいことは別です。

「ファミリー世帯が多い」とは、どの範囲との比較なのでしょうか。
「安定した需要」とは、誰の、どの利用需要でしょうか。
「競合が少ない」のは、需要があるのに未出店だからでしょうか。それとも、そもそも市場が成立しにくいからでしょうか。

生成AIは、与えられたデータをもとに説明を作ります。
しかし、前提となるデータが不十分であれば、不十分な情報を使って、それらしい結論を作る可能性があります。

そのため、AIに商圏分析を支援させる場合には、

  • どの範囲を商圏としているのか
  • 何と比較して特徴を判断しているのか
  • どの業態の利用を想定しているのか
  • どの時間帯、曜日、利用目的を想定しているのか
  • 不足している情報は何か

を明確にする必要があります。

AIが作った文章を読むのではなく、AIが置いた前提を確認する。
これが、生成AI時代の商圏分析では重要になります。

競合調査では「競合の定義」が重要になる

店舗開発における競合調査では、候補地周辺の同業店舗を一覧にすることが一般的です。

飲食店であれば、同じ料理を提供する店舗。
学習塾であれば、同じ対象学年を扱う塾。
フィットネスであれば、周辺のスポーツクラブ。
小売店であれば、同じ商品カテゴリーを扱う店舗。

生成AIを使えば、競合候補を分類し、店舗ごとの特徴や価格帯、営業時間、口コミ傾向などを整理しやすくなります。

しかし、競合店舗のリストが完成したからといって、競合調査が終わるわけではありません。

より重要なのは、
自社にとっての競合とは誰なのか
を定義することです。

顧客は、必ずしも同じ業種の中だけで比較しているわけではありません。

ランチを選ぶ顧客は、同じ料理の店だけでなく、コンビニ、弁当店、社員食堂、宅配サービスとも比較しているかもしれません。

学習塾は、近隣の学習塾だけでなく、オンライン学習、家庭教師、動画教材、部活動や習い事とも、子どもの時間と家庭の教育費を奪い合っています。

フィットネスクラブは、同業店舗だけでなく、24時間ジム、ヨガ、自宅トレーニング、ランニング、健康アプリとも競合します。

つまり、競合とは、同じ看板を掲げる企業ではありません。
顧客の時間、財布、目的を奪い合う相手です。
この定義を誤ると、AIにどれだけ詳細な競合調査をさせても、出店判断にはつながりません。

AIは、指定された条件に従って競合を探します。
逆にいえば、競合の条件を狭く設定すれば、狭い範囲の答えしか返ってきません。

店舗開発担当者に求められるのは、競合情報を多く集めることよりも、
顧客が何と比較して自社を選ぶのかを考えることです。

「競合が少ない」は出店理由になるのか

出店候補地の説明で、「周辺に競合が少ないため、出店余地がある」という表現が使われることがあります。
しかし、競合が少ないことには、少なくとも二つの可能性があります。

一つは、需要があるにもかかわらず、まだ有力な企業が出店していない場合です。
もう一つは、その市場では十分な需要が見込めず、他社も出店していない場合です。

見た目としては、どちらも「競合が少ない市場」です。

しかし、出店判断としての意味は正反対です。

この違いを判断するためには、競合店舗数だけでなく、

  • 代替サービスの利用状況
  • 周辺住民の消費行動
  • 既存店が出店していない理由
  • 過去の閉店履歴
  • 近隣店舗の売上や利用状況
  • 施設や地域の集客構造

などを確認する必要があります。

AIは、競合が少ないことを指摘できます。
しかし、それが機会なのか警告なのかを判断するのは人間です。

AIに任せる作業と、人間が担う判断を分ける

物件情報、商圏分析、競合調査に生成AIを活用する際には、業務を二つに分けて考えると分かりやすくなります。

AIに任せやすいのは、次のような作業です。

  • 文書から必要項目を抜き出す
  • 複数物件の条件を比較する
  • データの特徴を要約する
  • 情報を一定の分類に整理する
  • 不足項目や確認事項を洗い出す
  • 仮説や論点の候補を出す

一方、人間が担うべきなのは、次のような判断です。

  • 何を分析対象にするか
  • どの範囲を商圏と考えるか
  • 誰を顧客として想定するか
  • 競合をどのように定義するか
  • どのデータを重視するか
  • AIの説明に無理がないか
  • 現地で何を確かめるべきか
  • 最終的に出店をどう評価するか

ここで重要なのは、AIと人間を対立させないことです。

AIに任せる範囲を広げることで、人間は考える時間を増やすことができます。

ただし、その時間を単なる資料の修正に使うのではなく、仮説を立て、現地で確認し、判断基準を磨くために使わなければなりません。

情報量ではなく、問いの精度で差がつく

生成AIの普及によって、物件情報や商圏情報を集めること自体は、以前より容易になります。
競合店舗の一覧も、地域の特徴を説明する文章も、短時間で作成できるようになるでしょう。

だからこそ、これからの店舗開発では、情報量だけでは差がつきにくくなります。
差がつくのは、どのような問いを持って情報を見るかです。

この賃料が低いのはなぜか。
この契約条件は、将来どのような制約になるか。
この商圏では、誰が、いつ、なぜ利用するのか。
人口の多さは、実際の来店機会につながるのか。
顧客は、何と比較して自社を選ぶのか。
競合が少ないことは、機会なのか、それとも警告なのか。
AIが作った説明には、どのような前提が置かれているのか。

生成AI時代の店舗開発では、情報を集める力よりも、情報の意味を問い直す力が重要になります。

AIによって店舗開発業務の入口が速くなるからこそ、その先にある仮説と判断の質が、出店の成否を左右するのではないでしょうか。

次回は、現地調査メモと出店稟議書を取り上げます。

現地で得た情報を個人の経験で終わらせず、会社の知識資産として蓄積するにはどうすればよいのか。また、AIが文章を整えられる時代に、出店稟議書には何が求められるのかを考えます。

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