【連載】① Stage 1「つくる」編 ② Stage 2「拡げる」編 ③ Stage 3「組み替える」編

多店舗展開する企業では、長い間「店舗数を増やすこと」が成長の分かりやすい指標として使われてきました。

100店舗から200店舗へ。
200店舗から500店舗へ。
出店数が増え、店舗網が広がれば、売上規模も大きくなる。

そのため、
店舗数が増える=成長
店舗数が減る=衰退
と考えたくなります。

しかし、店舗ビジネスが成熟してくると、必ずしもそうとは限りません。

店舗数を減らすことは「衰退」なのか―成熟した店舗網を組み替えるという成長

新店を出し続けるより、既存店を移転した方がよい。
近接する店舗を統合した方がよい。
採算の合わない地域から撤退した方がよい。
店舗を小型化した方がよい。
店舗以外の顧客接点へ投資を振り向けた方がよい。

その結果、店舗数が減ることもあります。

それでも企業として収益力が高まり、次の成長に向けて経営資源を振り向けられるのであれば、それを単純に「衰退」と呼ぶのは適切なのでしょうか。

私たちは、成熟した店舗ビジネスには、店舗網を「増やす」こととは別の成長の方向があると考えています。

店舗網には「つくる」「拡げる」の先がある

これまでの記事では、店舗ビジネスの成長を大きく二つの局面から考えてきました。

最初は、店舗ビジネスを「つくる」段階です。

1号店を開ける。
成功する店舗の条件を探る。
2号店、3号店へつなげる。
店舗開発の体制をつくる。

次に、店舗網を「拡げる」段階があります。

出店地域を広げる。
店舗数を増やす。
売上予測や物件判断を標準化する。
店舗開発担当者を増やす。
複数の出店プロジェクトを同時に動かす。

ところが、その先があります。

店舗網がある程度まで成熟すると、これまでつくってきたものを前提に、「組み替える」という仕事が必要になります。

昔は正しかった出店が、今も正しいとは限らない

既存店には、それぞれ出店した理由があります。

出店した当時には人口が増えていた。
駅の利用者が多かった。
競合店が少なかった。
商業施設に勢いがあった。
その店舗フォーマットが消費者に支持されていた。

当時の判断としては正しかったかもしれません。
しかし、店舗は長期間そこに存在します。
その間に街は変わります。

人口構成が変わる。
人の流れが変わる。
駅前の商業集積が変わる。
大型商業施設が開業する。
競合が増える。
ECなど店舗以外の購入方法が普及する。
消費者が店舗に求めるものも変わる。

一方、店舗の場所は簡単には動きません。
その結果、企業が過去につくった店舗網と、現在の市場との間に少しずつズレが生まれます。

成熟した店舗網で考えなければならないのは、このズレです。

「まだ何店舗出せるか?」だけでは足りなくなる

成長期の店舗開発では、「あと何店舗出せるか?」という問いが重要です。

しかし、成熟した店舗網では、この問いだけでは十分ではありません。

例えば、ある地域に10店舗あるとします。
市場規模だけを見れば、あと2店舗出せるかもしれない。

しかし、その10店舗を詳しく見ると、
駅前に店舗が集中している。
郊外には空白地帯がある。
近接する2店舗が似た商圏を持っている。
1店舗だけ売上が大きく落ちている。
別の店舗は面積が大きすぎて採算が悪い。
ということがあるかもしれません。

この場合、
10店舗+2店舗=12店舗
にすることが最善とは限りません。

1店舗を閉める。
1店舗を移転する。
別の場所に2店舗出す。

結果として11店舗になる方が、店舗網として強くなる可能性もあります。

つまり問いは、
「あと何店舗出せるか?」から、
「この市場に、どのような店舗網をつくるべきか?」へ変わります。

閉店は「失敗処理」だけではない

店舗開発というと、新店を開ける仕事をイメージされることが多いと思います。
一方、閉店は営業不振への対応として扱われがちです。

しかし、成熟した店舗網を考えるのであれば、閉店も店舗網をつくるための一つの選択肢です。

例えば、
A店を閉める。
その顧客の一部を近隣のB店へ集約する。
B店を改装する。
浮いた経営資源を、成長余地のある別地域の新店へ投資する。
という判断もあり得ます。

あるいは、
売上不振の店舗を閉めるのではなく、より商業力の強い場所へ移転する。
店舗面積を小さくして採算を改善する。
従来型の店舗を減らし、新しいフォーマットへ置き換える。
こうした判断は、単なる縮小ではありません。

限られた経営資源を、より生産性の高い状態へ再配置する仕事です。

店舗数を守ることが目的になっていないか

ここで難しいのが、店舗数という数字です。
「全国500店舗」
「1,000店舗達成」
という数字は分かりやすく、社内外にも説明しやすいものです。

そのため、一度到達した店舗数を減らすことには心理的な抵抗が生まれます。

しかし、店舗数そのものを維持するために、
採算の悪い店舗を残す。
条件の悪い物件でも出店する。
市場の小さい地域に無理に店舗を配置する。
となれば、本来の目的と手段が逆転します。

店舗は、店舗数という数字を維持するために存在するものではありません。
企業が顧客へ価値を提供し、収益を生み出すための拠点です。

だから成熟した店舗網では、
「何店舗あるべきか」ではなく、「どのような店舗網であるべきか」
を改めて考える必要があります。

「組み替える」ときも、5つの機能は必要になる

福徳社では、店舗開発を5つのフェーズで考えています。

店舗開発の5つの機能

PLAN どこに、どんな店を出すのか。
FIND どんな物件なら成立するのか。
CREATE どんな店舗をつくるのか。
OPEN どう開業するのか。
ENABLE 次の店も、今のチームで開けられるのか。

店舗網を組み替える段階になっても、この5つがなくなるわけではありません。
ただし、役割が変わります。

PLAN

「どこに新店を出すか」だけではなく、
どこを伸ばすのか。
どこを維持するのか。
どこを減らすのか。
どこへ経営資源を移すのか。
を店舗網全体から考えます。

FIND

新店物件だけを探すのではありません。
既存店の移転候補、統合先、より採算性の高い立地なども物件開発の対象になります。

CREATE

既存の店舗フォーマットをそのまま使い続けるとは限りません。
小型化する。
大型化する。
機能を変える。
ブランド表現を更新する。
店舗そのものをつくり直す仕事が発生します。

OPEN

新店OPENだけではなく、移転、改装、統合、新フォーマットへの転換などを実行します。

ENABLE

拡大期につくられた組織や業務プロセスが、そのまま成熟期にも適しているとは限りません。

出店数だけを追う評価基準を変える。
新店中心だった店舗開発業務に既存店改善を組み込む。
営業やマーケティングなど他部門との役割分担を見直す。

店舗網だけでなく、店舗網を管理する仕組みも組み替える必要があります。

規模縮小と成長は両立する

成熟した企業では、「利益を確保しながら店舗数を減らす」という経営判断もあります。

一見すると矛盾しているように見えます。
しかし、
100店舗で得ていた利益を80店舗で確保できる。
不採算店に使っていた人材や資金を成長事業へ振り向けられる。
残った店舗への投資を増やせる。
新しい業態やチャネルを育てられる。
のであれば、企業全体では前へ進んでいます。

だから、店舗数が減ったという一つの数字だけを見て、「成長が止まった」と判断することはできません。

店舗ビジネスの成熟後には、店舗網の規模とは別のベクトルで成長する局面があります。

難しいのは「何を残し、何を変えるか」

店舗網を増やす局面と比べて、「組み替える」局面が難しい理由があります。

すでに多くのものが存在しているからです。

店舗があります。
従業員がいます。
顧客がいます。
取引先があります。
賃貸借契約があります。
設備があります。
社内の役割や評価制度があります。

白紙から考えることはできません。

しかも、既存店には過去の意思決定が積み重なっています。

だから成熟期の店舗開発では、
何を変えるかだけでなく、
何を残すかも同じくらい重要になります。

全部を変える必要はありません。

今の店舗網のどこが強みなのか。
どこに歪みがあるのか。
どこを変えれば効果が大きいのか。

まず現在地を正しく理解することが必要です。

企業成長は、一直線の右肩上がりではない

店舗ビジネスの成長を考えるとき、店舗数が右肩上がりに増え続けるグラフを思い浮かべがちです。

しかし、実際の企業成長はもっと動的です。
店舗ビジネスをつくる。
店舗網を拡げる。
そして、成熟した店舗網を組み替える。
場合によっては、店舗数を一度減らしながら、別の成長軌道へ移ることもあります。

重要なのは、どの段階が優れているかではありません。
自社がいまどの段階にいて、次にどのような状態を目指すのか。
それによって、店舗開発で考えるべきことが変わります。

店舗開発とは、新しい店舗を開け続ける仕事だけではありません。
企業の成長に合わせて、店舗網をつくり、拡げ、必要なら組み替える。
そして、その時々の企業にとって最もふさわしい店舗網をつくり続ける。

成熟した店舗ビジネスにおいては、それも店舗開発の重要な役割だと私たちは考えています。

リテールブランドの成長ステージ
店舗ビジネスの成長と店舗開発の変化を示した概念図