【連載】① Stage 1「つくる」編 ② Stage 2「拡げる」編 ③ Stage 3「組み替える」編

店舗数が増えることは、チェーン企業にとって一つの成長の証です。

10店舗が30店舗になり、30店舗が100店舗になる。
出店地域が広がり、売上も大きくなる。

ところが、ある程度まで店舗数が増えると、店舗開発をめぐる会話が変わってきます。

店舗は増えた。でも、次に何をすべきか分からない―成長した店舗網の問題をどう整理するか

「まだ出店できるのか?」
「この地域には店が多すぎないか?」
「既存店の売上が落ちているのは、新店とのカニバリではないか?」
「売れない店を移転した方がよいのではないか?」
「そもそも、次はどこに出せばよいのか?」

店舗数が増えると、新店を増やすことだけを考えていた時期にはなかった問題が、次々に出てきます。

ここで重要なのは、店舗数が増えると、問題の数が増えるだけではないということです。
企業やブランドの成長とともに、店舗開発で解くべき問題そのものが変わります。

「100店舗つくれたら300店舗つくれる」の意味

以前、スターバックス コーヒー ジャパンがまだ100店舗ほどだったころのことです。

角田雄二社長(当時)が、吉野家の安部修仁社長(当時)と食事をされた後、こんな話をしていました。

「『100店舗つくれたら、300店舗つくれる。でも、100店舗と300店舗では社長から見える風景が全く変わる。』と言われたんだけど、どういう意味かな?」

当時の私には、正直なところ、その答えは、見当もつきませんでした。
でも今なら、その言葉の意味を考えることができます。

100店舗を300店舗にするということは、100店舗をつくった仕事を単純に3倍することではありません。

店舗網が大きくなれば、これまで存在しなかった問題が生まれます。
新店をどこに出すかだけでなく、

既存店をどこに移すのか。
どの店舗を改装するのか。
どこを閉めるのか。
自社店舗同士の競合をどう考えるのか。
地域ごとの店舗密度をどう考えるのか。
店舗フォーマットを変える必要はないのか。
店舗開発や運営の人材をどう組織するか。
判断基準をどう統一するのか。

といった問題です。

規模が変われば、経営から見える風景も、店舗開発の仕事も変わります。

「2段ロケットが飛ばない」という問題

経営者の方と成長について話していると、「2段ロケット」という表現を聞くことがあります。

1段目のロケットはうまく飛んだ。
商品やサービスがお客様に支持され、店舗が増え、事業として成立した。

ところが、その先の2段目をどう飛ばせばよいか分からない。

これは多店舗ビジネスで珍しくない問題です。

初期の成長段階では、良い店をつくり、良い場所に出店し、それを繰り返すことで、ある規模までは成長できることがあります。

しかし、店舗網が大きくなると、それだけでは次の成長につながらなくなります。

すでに出店している地域があります。
好調店も不振店もあります。
以前は良かった立地の環境が変わっていることもあります。
新店を出せば、既存店との関係も考えなければなりません。

組織も大きくなり、店舗開発だけでなく、営業、マーケティング、財務、人事など、多数の部門が関わらないと店が開かなくなります。

つまり、2段目のロケットには、1段目とは違う飛ばし方が必要になります。

「もっと出店しろ」と言われても、どこに出せばよいか分からない

この段階でよく起こるのが、経営側と現場側の景色の違いです。

経営側から、
「今後も成長するために、もっと店舗を増やしたい」
「5年間の出店計画をつくってほしい」
「この地域にはまだ出せるのではないか」
といった課題が提示されます。

一方、現場から見ると、
「主要な場所にはもう出店している」
「既存店には不振店もある」
「物件が出てきても、出してよいのか判断できない」
「追加出店したら既存店とカニバリするのではないか」
という状況になっている。

どちらかが間違っているとは限りません。
店舗網が成長したことで、問題が複雑になっているのです。

だから、この段階では一度、既存店分析を行い、店舗網全体を見る必要があります。

まず「何が起きているのか」を整理する

問題が複雑になるほど、いきなり施策を考えたくなります。

売上が悪いから閉店する。
出店数が足りないから物件を増やす。
既存店売上が下がったからカニバリを疑う。
売上予測が当たらないから予測モデルを作り直す。

しかし、その前に確認したいことがあります。

本当に、それが問題なのか。

例えば、既存店売上が下がっていても、近隣への新店出店が原因とは限りません。
店舗網全体では店舗数が多く見えても、地域別に見れば過剰なエリアと不足しているエリアが混在しているかもしれません。
売上予測が外れているように見えても、問題は予測式ではなく、そもそもの物件評価基準にあるかもしれません。
店舗の見た目を変えたいという相談でも、調べてみると本当の問題はデザインそのものではなく、店舗の存在に気づきにくい、何の店か分かりにくい、入り口が分かりにくい、といった入店前の問題かもしれません。

だから最初に必要なのは、解決策ではありません。

既存店と店舗網で、いま何が起きているのかを把握することです。

複雑な問題ほど、一つの部署だけでは説明できない

店舗ビジネスの問題が難しいもう一つの理由は、原因が一つの部署に収まらないことです。

売上不振という一つの現象にも、

出店したエリア、
物件の立地、
店舗の視認性や入りやすさ、
店舗フォーマット、
商品やサービス、
認知や集客、
店舗運営、

など、複数の要因が関係します。

ところが社内では、それぞれの部門が自分の担当領域から問題を見ることになります。
店舗開発部から見える問題と、営業部から見える問題は同じとは限りません。
マーケティング部門や経営側から見える景色も違います。

これは誰かの視野が狭いという話ではありません。
組織の中にいるからこそ、自分たちの担当範囲を越えて問題全体を見ることが難しくなるのです。

このような場合には、一度、部門の境界を外して、
「お客様からは、この店舗はどう見えているのか」
「店舗網全体としては、何が起きているのか」
というところから見直すことが有効です。

5つのフェーズは、成長してもなくならない

福徳社では、店舗開発を大きく5つのフェーズで考えています。

PLAN どこに、どんな店を出すのか。
FIND どんな物件なら成立するのか。
CREATE どんな店舗をつくるのか。
OPEN どう開業するのか。
ENABLE 次の店も、今のチームで開けられるのか。

店舗開発の5つの機能

これらは、初めて店舗を出す企業だけに必要なものではありません。

店舗網が成長しても、5つの機能は必要です。

ただし、その意味が変わります。

例えばPLAN。

店舗数が少ない段階では、「どの地域に出店するか」「何店舗を目指すか」が中心です。

店舗網が成熟してくると、「どこに追加出店するか」だけでは足りません。

どこを維持するのか。
どこを補完するのか。
どこを移転するのか。
どこを閉めるのか。

店舗網全体をどう再構成するかという問題になります。

FINDも、単に空き物件を探す仕事ではなくなります。

CREATEも、1号店のデザインをつくることから、既存店舗を含めた店舗フォーマットやブランド表現を更新する仕事へ広がります。

ENABLEも、人を増やすだけではありません。

店舗数や地域が増えた組織に合わせて、役割分担、判断基準、業務フロー、人材育成の仕組みそのものを見直す必要が出てきます。

同じ5つの機能でも、企業の成長段階によって解く問題が変わる。

ここが、多店舗ビジネスを考えるうえで重要なポイントです。

成長とは、店舗数を増やし続けることだけではない

さらに店舗網が成熟すると、もう一つ違う局面が現れます。

店舗数を増やすこと自体が、必ずしも最優先ではなくなる段階です。

市場環境が変わる。
人口や人流が変わる。
競争環境が変わる。
消費者の行動が変わる。
オンラインなど、店舗以外の顧客接点が重要になる。

そのような環境では、店舗数を維持することより、店舗網を組み替える方が合理的なことがあります。

不採算店を閉める。
より良い場所へ移転する。
近接する店舗を統合する。
店舗を小型化する。
重点地域へ投資を集中する。
別の店舗フォーマットをつくる。

結果として店舗数が減ることもあります。

しかし、利益を確保し、企業の資源を次の成長分野へ移すための店舗網再編であれば、それを単純に「衰退」と捉える必要はありません。

規模を拡大することだけが、店舗ビジネスの成長ではありません。

店舗網を組み替え、次の成長軌道へ移ることもあります。

だから、入口となる相談だけを見ない

実際のご相談は、もっと具体的です。
「売上予測モデルを作りたい」
「物件情報が集まらない」
「不振店を何とかしたい」
「店舗デザインを見直したい」
「今後5年間の出店計画を作りたい」
といった、個別の課題から始まることがほとんどです。

もちろん、その課題から仕事を始めることはできます。

ただし、店舗網がある程度まで成長した企業では、一つの問題がほかの問題とつながっていることが珍しくありません。

売上予測の問題だと思って分析を始めたら、店舗網の偏りが見えてくる。
物件開発の問題だと思っていたら、そもそも出店すべきエリアが定義されていない。
店舗デザインの問題から始めたら、店舗の運用ルールや組織の問題まで見えてくる。

だから、入口は一つの課題でも、最初に店舗ビジネス全体の現在地を把握することが重要です。

「何を頼めばよいか分からない」は、珍しいことではない

店舗が増え、問題が複雑になると、
「結局、何から手をつければよいのか分からない」という状態になることがあります。

これは不思議なことではありません。
むしろ、企業が一つの成長段階を越え、次の段階へ移ろうとしているときに起こりやすい問題だと考えています。

1号店をつくるとき。
店舗網を拡大するとき。
成熟した店舗網を組み替えるとき。

必要な判断も、組織も、店舗開発の進め方も同じではありません。

だからこそ、目の前の問題だけをすぐに解こうとするのではなく、
自社はいま、店舗ビジネスのどの段階にいるのか。
次に、どのような状態を目指しているのか。
そのために、PLAN / FIND / CREATE / OPEN / ENABLEのどこを変える必要があるのかを一度整理してみる。

100店舗と300店舗で見える風景が違うのであれば、同じやり方を続けるだけでは次の景色にはたどり着けません。

店舗開発とは、新しい店を増やす仕事だけではありません。
企業の成長に合わせて、店舗網と、それをつくる仕組みそのものを変えていく仕事でもある。
私たちは、そう考えています。

続きは明日のブログStep 3「組み替える」編で。

リテールブランドの成長ステージ
店舗ビジネスの成長と店舗開発の変化を示した概念図