昨日までの話に、「商圏の分断」や「良い立地とは?」についてお話ししてきたことを踏まえて、「全国チェーンが戦いにくいマーケット」シリーズ最終回の内容をお話しします。

客層を分類する次のマトリクスをご覧ください。(マトリクスで物事を考えるのは大変便利です。この点については、改めてお話しします。)

【表1】客層の分類

顧客構成 特定の店舗の利用頻度
不特定多数 〔A〕 〔B〕
特定少数 〔C〕 〔D〕

縦軸は「不特定多数」と「特定少数」に分かれています。

「不特定多数」とは「特定できない多くの客が混在する状態」で、「特定少数」とは「特定できる少数の客が混在する状態」です。

横軸は、お客さん一人がある「特定の店舗」を利用する頻度が高いか、低いかを表します。「特定の店舗」というのが重要です。チェーン店の場合、そのチェーンの複数の店舗ではなく、特定の〇〇店の利用頻度が高いか、低いかを表しています。

2つの軸を掛け合わせると、〔A〕、〔B〕、〔C〕、〔D〕の2×2 = 4つのマスができます。

4つのマスのうち、〔A〕と〔D〕は現実的にはあまり考えにくい店舗タイプです。〔A〕は、特定できないくらいの多くの同じお客さんが、繰り返し利用してくれるような夢のようなケースで、東京ディズニーシ―(TDS)やユニバーサルスタジオ・ジャパン(USJ)のような特別な施設ぐらいでしか実現できないでしょう。〔D〕は、特定可能な少数の同じお客さんが、繰り返し利用しないケースで、業としての商売は成り立ち得ません。

では、〔B〕と〔C〕はどうでしょうか?

〔B〕は、特定できないくらいの多くの同じお客さんが、たまたまその店舗を利用するようなケースです。一方、〔C〕は、特定可能な少数の同じお客さんが、繰り返し利用するケースです。

極端な言い方をすれば、全体で100のトランザクション(取引)があった場合、〔B〕ではそれぞれ異なる100人が1回だけ取引をすることで100トランザクションが形成される一方、〔C〕では、例えば同一人物が10人いたとして、彼らが10回取引することで100トランザクションが形成されます。〔B〕に比べて〔C〕は常連さんの比率が高い、と言えば分かりやすいかもしれません。

このマトリクスを使って考えると、全国チェーンが得意とするのはBを対象にする出店であると言えます。つまり、全国チェーンはお客さんの頭数を多くすることでトランザクション(取引件数)を稼ぐ傾向にあるため、集客できないことの危険性が低い立地(例えば駅や大型商業施設など)を出店候補地として志向します。集客が高い施設になればなるほど全国チェーンのテナントが増えるのはそのためです。

一方で、人口や世帯が地理的に広域に分散しているようなマーケットでは、移動手段が鉄道以外であることが多く、駅の集客力が弱いため、大型商業施設の開発が進む、ないしは、道路交通量が集中する地域がある、などの条件が存在しない限り、全国チェーンは出店しにくいものなのです。こうした条件が揃わない場合、マーケットは無数の小さい商圏に分断され、個々の小商圏を狙った地元企業や個人事業主が商売をされています。他所者には、すぐにそれらの存在を識別するのが難しいものです。しかし、こうした企業や店舗は長い年月に渡って地元の方々に支持されているものであり、彼らの存在も全国チェーンの出店を躊躇させる要因となります。つまり、〔C〕を対象とするのは全国チェーンが苦手とする出店と言え、逆に、地元企業や個人事業主にとっては大きな出店機会となります。この場合、小商圏でも収益の出せる店舗を、それぞれの小商圏に配置することでマーケットをカバーする必要があります。これを「ドミナント戦略」と言います。

表2は、表1のつづきで同表を修正したものです。このコラムでは、全国チェーンにとっての良い立地と、地元企業や個人事業にとっての良い立地は性質が異なると考えるべきである、と結論付けたいと思います。

【表2】客層の分類(つづき)

客層

特定の店舗の利用頻度
不特定多数 理想だが通常ありえない(TDS、USJ向き) 〇(全国チェーン向き)
特定少数 〇(地元企業・個人事業向き) ×(盆踊りの屋台?)

「全国チェーンが戦いにくいマーケット」という言葉が頭をよぎったのは、今から10年以上前、私がまだ企業で出店候補地の調査を担当していたときに、T県のT駅前に着いたときのことでした。県庁所在地のある街の駅前なのに人がほとんど歩いていなかったのです(ちなみにT県は鳥取ではありません。あしからず)。ここは「これまでの出店の考え方がそのまま通用しないマーケットだ」と思い、不安になったのを覚えています。

余談ですが、その日、近くにあった蕎麦屋さんに寄り、お蕎麦を待っている間にPCに向かって書類を書いていたら、おばさんが「勉強してるのか?偉いな」と言って、いなりずしを2個オマケしてくれたこともあって、その日のことは今でもよく覚えています。でも、現在は状況もだいぶ変わっていることと思います。その点は、上記の表現についてはご容赦ください。

『スターバックス』鳥取初出店のニュースを受けて考え始めたこのシリーズでは、その時感じた不安の理由を深掘りし、まとめてみました。お付き合いくださりありがとうございました。

 

翌日から実務で使える知識が身に着く!チェーン店店舗開発担当者のための実務講座毎月開講中
店舗開発業務そのものへの初歩的なガイダンスが必要な方を対象とした店舗開発入門講座、チェーン店の出店戦略・エリア戦略の考え方や具体的な立案のやり方を学ぶ上級編講座、新規物件売上予測モデルの作り方・既存店分析のやり方を実践演習で身に着ける店舗開発担当者のためのエクセル・統計入門講座など、チェーン店店舗開発の実務に即したセミナーです。オリジナルテキスト付。詳細・スケジュールはこちら