前回の続きです。店舗開発では、まず「この店は売れるか」を考えます。

商圏に十分な需要はあるか。
ターゲットとなる顧客はいるか。
競合に対して優位性を持てるか。
店舗は見つけてもらえるか。
賃料を吸収できるか。
投資を回収できるか。

これらは、出店判断に欠かせない視点です。

どれほど魅力的に見える物件でも、十分な売上が見込めなければ、出店を続けることはできません。

一方で、チェーン企業が多店舗化を進める場合には、もう一つの問いが必要になります。それが、
「このブランドは、ここに出るべきか」という問いです。

売上が見込める場所であっても、そのブランドが出店する場所として適切とは限りません。

反対に、短期的な売上だけでは評価しにくくても、ブランドの市場浸透や店舗網の形成にとって重要な場所もあります。
「ここなら売れる」と「ここに出るべき」は、似ているようで異なる問いです。

生成AIによって、商圏データの整理、候補物件の比較、売上予測の前提確認などが速くなればなるほど、店舗開発担当者には、その先にある判断が求められます。

今回は、売上判断とブランド判断をどのように分けるべきか。また、店舗外観や周辺環境を出店判断の中でどのように捉えるべきかを考えます。

「売れるか」は個店の成立性を問う

「この店は売れるか」という問いは、主として個別店舗の成立性を考えるものです。

商圏人口。
駅の利用者数。
通行量。
周辺施設の集客力。
競合店舗の状況。
視認性。
区画面積。
賃料。
投資額。

こうした条件を確認し、出店した場合にどの程度の売上が見込めるかを推計します。
予想される売上から、原価、人件費、賃料、減価償却費などを差し引き、利益が残るかどうかも検討します。
この分析は、店舗開発の基本です。

ただし、売上が成立するということは、あくまで、その店舗単体で事業が成り立つ可能性があるということです。

その出店が企業全体にとって適切かどうかは、別に考える必要があります。

たとえば、十分な売上が見込める物件であっても、

既存店とのカニバリが大きい。
店舗網の拡大方向と異なる。
ブランドの想定顧客と周辺の利用者が一致しない。
店舗外観や営業環境がブランドイメージと合わない。
将来の追加出店につながりにくい。

といった問題があるかもしれません。

個店の売上予測が基準を上回っているからといって、出店するべきだとは限らないのです。

「出るべきか」はブランドと店舗網を問う

「このブランドは、ここに出るべきか」という問いでは、個店の採算だけでなく、出店がブランドや店舗網全体に与える影響を考えます。

その街に出ることで、ブランドはどのように見えるのか。
その商業施設に入ることで、どのような顧客と接点を持つのか。
周囲の店舗と一緒に見られたとき、ブランドらしさは伝わるのか。
その場所に出店することで、次の出店につながるのか。
店舗網全体の認知や利便性は高まるのか。

店舗は、商品やサービスを販売する場所であると同時に、顧客にブランドを伝える接点でもあります。

顧客は、広告やウェブサイトだけでブランドを判断しているわけではありません。

どの街に店があるのか。
どの商業施設に入っているのか。
駅前にあるのか、住宅地にあるのか。
路面店なのか、地下や上層階の区画なのか。
どのような店に囲まれているのか。

こうした出店場所の積み重ねも、ブランドに対する印象をつくります。

そのため、出店候補地は単に売上を獲得する場所ではなく、
ブランドが社会の中でどのように見られるかを決める場所
として評価する必要があります。

同じ売上でも、出店の意味は異なる

仮に、売上予測がほぼ同じ二つの物件があったとします。

一方は、すでに自社の認知が高い地域にある物件です。

近隣には既存店があり、広告宣伝や人員配置、物流の効率も高めやすい。追加出店によって顧客の利便性が向上し、地域内でのプレゼンスがさらに高まる可能性があります。

もう一方は、既存の店舗網から離れた未出店地域にある物件です。

物件単体では同程度の売上が見込めても、新たに採用、教育、管理、物流の体制を整える必要があります。地域でのブランド認知が低いため、開業後の販促費も必要になるかもしれません。

この二つは、売上予測が同じでも、店舗網における意味は異なります。

前者は、市場浸透を進め、既存の店舗網を強化する出店です。
後者は、新たな市場へ店舗網を広げる市場拡大の出店です。

どちらが正しいということではありません。
重要なのは、その出店が何を目的としているのかを明確にすることです。

市場浸透を進めるのか。
新しいエリアへ進出するのか。
ブランド認知を高めるのか。
競合に先行して重要立地を確保するのか。
将来のドミナント形成の起点にするのか。

同じ売上が見込める物件でも、出店の目的が違えば、評価の基準も変わります。

物件がブランドを選ぶこともある

店舗開発では、「自社が物件を選ぶ」と考えるのが一般的です。

しかし、実際には、物件や立地の特徴によって、ブランドの見え方が強く規定されることがあります。

たとえば、高価格帯の商品や専門性の高いサービスを扱うブランドが、価格訴求の強い店舗ばかりが集まる場所に出店した場合、顧客はどのように受け止めるでしょうか。

ブランドの知名度が十分に高ければ、周辺環境にかかわらず顧客を呼べるかもしれません。

一方で、ブランド認知がまだ弱い段階では、周囲の店舗や施設の印象に影響され、本来とは異なるブランドとして理解される可能性があります。

反対に、格式や専門性を求めすぎて、人がほとんど通らない場所に出店すれば、ブランドイメージは維持できても、顧客との接点をつくれません。

ブランドに合う場所を選ぶことは、単に高級な場所や有名な場所を選ぶことではありません。

自社が提供する価値と、顧客がその場所を利用する目的が合っているかを考えることです。

立地は、ブランドを引き立てることもあります。
一方で、ブランドの意味を変えてしまうこともあります。

そのため、「このブランドはここに出るべきか」という問いは、好き嫌いや感覚の問題ではなく、顧客にどう理解されるかを考える立地評価の問題です。

店舗外観は、入店前の判断材料である

ブランドと立地の関係を考えるうえで、店舗外観も重要です。

店舗外観は、建築やデザインの問題として扱われることが多いですが、店舗開発の視点では、顧客が入店前に行う判断を支える情報として捉える必要があります。

顧客は店に入る前に、短い時間でさまざまなことを判断しています。

何を提供する店なのか。
自分に関係がある店なのか。
価格帯は自分に合うのか。
入ってもよい店なのか。
予約がなくても利用できるのか。
店員に声をかけられそうか。
買わずに出ても問題ないか。

こうした疑問に対する答えが外から読み取れなければ、顧客は店の前を通過する可能性があります。

立地条件が良く、通行量が多くても、店舗が何を提供しているのか分からなければ、その通行量は入店につながりません。

反対に、必ずしも一等地ではなくても、店舗の役割や利用方法が明確であれば、目的を持った顧客を呼び込める場合があります。

店舗外観は、単に目立てばよいわけではありません。
顧客が安心して次の行動を選べる情報を、店外に示すことが重要です。

「かっこいい店」と「入れる店」は同じではない

店舗デザインでは、洗練された外観や独自性の高い表現が評価されることがあります。

もちろん、ブランドの世界観を表現し、記憶に残る店舗をつくることは重要です。
しかし、外観が魅力的であることと、顧客が入りやすいことは必ずしも同じではありません。

外から店内の様子が見えない。
商品やサービスの内容が分からない。
入口がどこにあるか分かりにくい。
利用方法が想像できない。
自分が対象顧客なのか判断できない。

こうした状態では、デザインとして印象的でも、入店に不安が生じます。

特に、新しい業態や認知の低いブランドでは、顧客は店名だけを見ても何の店か判断できません。

ブランドを知っている人にとっては魅力的でも、初めて見る人にとっては関係性を判断できない可能性があります。

店舗外観を評価するときには、
ブランドらしさが表現されているか
だけでなく、
初めて見る顧客にも、店の役割が理解できるか
を確認する必要があります。

ブランド表現と分かりやすさのどちらか一方を選ぶのではなく、両者をどう両立させるかが課題になります。

周辺環境と一緒に見られることを前提にする

店舗は、単独では見られません。
隣接する店舗、建物、道路、看板、歩行者、駐車車両など、周辺環境と一緒に顧客の視界に入ります。

完成した店舗デザインだけを単体で評価すると、実際の見え方を見誤ることがあります。

たとえば、ブランドカラーを使った看板が、隣接店舗のより大きな看板に埋もれるかもしれません。
建物内では目立って見えても、主要な歩行方向からは入口が見えない場合もあります。
高級感のある外観をつくっても、建物共用部の管理状態によって印象が損なわれることもあります。

顧客は、ブランドが意図したデザインだけを見るわけではありません。
周囲にある情報を含めて、一つの店舗として受け止めます。

そのため、出店判断では、
店舗外観をどうつくるか
だけでなく、
その店舗が周辺環境の中でどう見えるか
を確認する必要があります。

物件を契約してからデザインで解決しようとしても、建物構造や看板規制、共用部の環境によって、できることには限界があります。

店舗外観の問題は、設計段階だけの問題ではありません。
物件評価の段階から考えるべき店舗開発上の問題です。

AIはブランド判断を代行できるのか

生成AIを使えば、候補物件についてさまざまな観点を整理できます。

周辺施設の特徴をまとめる。
立地とブランドの相性を検討する。
想定顧客が抱く印象を列挙する。
外観写真から分かりにくい点を指摘する。
出店によるブランド上のリスクを挙げる。

こうした使い方は可能です。

しかし、AIが「このブランドはここに出るべきです」と答えたとしても、その結論をそのまま採用することはできません。

なぜなら、ブランド判断には、企業固有の戦略や価値観が関係するからです。

どの顧客に選ばれたいのか。
どのようなブランドとして定着したいのか。
どのエリアを優先するのか。
どの程度の売上とブランド価値を両立させるのか。
短期的な採算と長期的な市場形成をどう評価するのか。

これらは、一般的なデータだけでは決まりません。
企業自身が判断基準を持つ必要があります。

AIは、ブランド適合性を検討するための論点を出すことはできます。
しかし、何を自社らしいと考え、どのリスクを許容するかを決めるのは人間です。

AIに問うべきなのは「出店理由」だけではない

AIを出店判断に使う場合、候補物件を肯定する理由だけを求めると、出店を後押しする材料ばかりが集まる可能性があります。
そこで、反対側からも問いを立てることが重要です。

この立地がブランドに与える悪影響は何か。
想定顧客が入りにくいと感じる理由は何か。
周辺環境とブランドイメージが衝突する点はあるか。
この場所に出店しない方がよい理由は何か。
同じ売上が見込める別の立地と比べ、どのような弱点があるか。
この出店が店舗網全体を分散させる可能性はあるか。

AIを使って結論を作るのではなく、見落としている論点を増やす。

この使い方の方が、出店判断の質を高めるうえでは有効です。

特に、「売れる可能性が高い」という結論が出ている物件ほど、「それでも出るべきでない理由はないか」と問い直す必要があります。

売上判断とブランド判断を分けて評価する

出店会議では、売上判断とブランド判断を分けて示すと、議論が整理しやすくなります。

たとえば、次のように考えます。

売上成立性

  • 商圏に十分な需要があるか
  • 想定顧客が実際に利用する場所か
  • 競合に対して選ばれる理由があるか
  • 視認性やアクセスに問題はないか
  • 賃料と投資額を回収できるか

ブランド適合性

  • 自社が目指すブランドイメージと合うか
  • 想定顧客に正しく理解されるか
  • 周辺環境と一緒に見られてもブランドらしさが保たれるか
  • 店舗外観から利用方法が伝わるか
  • 店舗網全体の認知や利便性を高めるか
  • 将来の出店戦略につながるか

この二つを分けることで、
売れる可能性は高いが、ブランドとの適合性に問題がある物件と、
売上には不確実性があるが、店舗網形成上の意味がある物件
を区別できます。

もちろん、ブランドに合うという理由だけで、採算の取れない店舗を出店するべきではありません。

重要なのは、売上判断とブランド判断のどちらか一方に偏らず、両者を明示的に評価することです。

出店判断は、店舗網全体で考える

個別物件だけを見れば、出店した方がよいように見えることがあります。

しかし、店舗網全体で見ると、別の判断になる場合があります。

既存店に近すぎないか。
今後重点的に展開したいエリアとつながっているか。
その地域で追加出店する余地はあるか。
ブランド認知を高める起点になるか。
管理や採用の効率を高められるか。
出店エリアが過度に分散しないか。

店舗網は、個々の店舗を後から足し合わせたものではありません。

一つの出店が、次の出店の条件を変えます。

最初の店舗がどこにあるかによって、顧客がブランドに抱く印象も、その後に獲得できる物件も変わる可能性があります。

特に、多店舗化の序盤では、出店の順番が重要です。

話題性の高い場所に1店舗出した後、十分な市場浸透が進まないまま遠隔地へ展開すれば、ブランド認知も管理資源も分散します。

一方で、既存エリアに集中しすぎれば、カニバリが生じ、新しい市場への成長機会を失うこともあります。

「ここに出るべきか」という問いは、最終的には、
この出店が、店舗網全体をどの方向へ動かすのか
という問いにつながります。

「どこに出すか」から「ブランドをどう広げるか」へ

生成AIによって、物件条件の整理や売上予測の前提確認は、以前より速くできるようになるでしょう。

候補物件を比較し、メリットやリスクを一覧にすることも容易になります。

だからこそ、人間は、数字の先にある意味を考える必要があります。

この店は売れるか。
このブランドは、ここに出るべきか。
この場所で、ブランドはどう見えるか。
顧客は、入店前に何を判断するか。
周辺環境と一緒に見られたとき、ブランドらしさは保たれるか。
この出店は、店舗網全体を強くするのか。
それとも、店舗網の方向性を曖昧にするのか。

生成AI時代の店舗開発では、個店の売上成立性を評価するだけでは、十分な判断とはいえなくなります。

店舗開発担当者に求められるのは、売れる物件を探すことに加えて、
ブランドをどの場所に、どのような姿で、どの順番で広げるかを考えることです。

「ここなら売れる」と「ここに出るべき」を分けて考えることは、店舗開発を個別物件の処理から、ブランドと店舗網の設計へ進化させる第一歩ではないでしょうか。

次回は、店舗網を単なる店舗一覧ではなく、ブランドを伝えるメディアとして捉えます。

また、出店時点の売上や投資回収だけでなく、移転、退店、統合、業態転換といった出口の選択肢まで含めて、生成AI時代の店舗網戦略を考えます。

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