サマーセール中の店の前を歩いていると、赤いSALEの文字が目に入ります。
「SALEやってる。」
「少し時間あるし、寄ろうかな。」
お客様が店へ入るかどうかを一瞬で決める。この判断も、秒判断です。
そのとき見ているのは、SALEの文字だけではありません。
店内に何があるか。人がいるか。入口はどこか。入りやすそうか。
ファサードから受け取る情報を重ねて、次の一歩を決めています。
SALEの告知が通行人の目を引けば、まず店へ視線を向ける人が増えます。
しかし、告知によって店内が見えにくくなり、入りにくさが生まれれば、せっかく目を引いても入店にはつながりません。
“キャッチ率”を上げるポスター、下げるポスター
店前通行量に対する入店者数の割合を示す「キャッチ率」という指標があります。
その一瞬の結果に至るまでには、「店を見る」「入りたいと感じる」「実際に入る」という複数の判断が含まれています。
店舗デザインを考えるときは、この過程を「視線を集める力」と「入店へつなげる力」に分けて見る必要があります。
大きなSALEポスターは、セール中であることを素早く伝えます。
一方で、ガラス面を大きく占めると、店内の様子が伝わりにくくなることがあります。
今回、新宿サザンテラスのFrancfranc(写真左)と、エキア志木のITS’DEMO(写真右)を正面から見比べました。
お客様の秒判断に違いを生む背景として、後付け販促の方法と、販促場所が設計されていたかを見ていきます。
ブランド管理を行うチェーン店では、ファサードの設計と一体化していない後付け販促物でガラス面を覆うことは、原則として避けるべきです。
しかし、店長に「貼るな」と伝えるだけでは不十分です。
SALEや新商品をどこへ掲出するかを、設計段階で用意しておかなければなりません。
ガラス面への後付け販促物は原則として避ける
ガラス面には、店内や商品、人の動き、明るさ、空間の奥行き、入りやすさを外へ伝える役割があります。
VI(ビジュアル・アイデンティティ)は、ブランドらしさを視覚的に伝える仕組みです。
店舗では、ロゴだけでなく、色、形、素材、サイン、照明、空間デザインなどが組み合わさり、そのブランドらしさを表現しています。
ガラス面も、その一部です。
大きな後付け販促物がガラス面を占有すると、店内の見通しやファサードの統一感が損なわれます。
しかしSALE告知は運営上必ず発生する
店が開けば、SALE、新商品、季節企画、営業時間の変更など、店外へ伝える情報が必ず増えます。
今回のような雑貨店では、季節ごとのSALEや新商品の告知が繰り返し発生することを、設計段階で十分に予測できます。
必要な告知場所が用意されていなければ、現場は空いているガラス面付近を使わざるを得なくなります。
原則を伝えるだけで、掲出方法を用意しなければ、店舗運営は成り立ちません。
必要なのは、現場が無理なくルールを守れる設計です。
ITS’DEMOでは後付けの販促フレームが使われている
ITS’DEMOエキア志木店では、大きなSALEポスターがガラス面の店外側に掲出されていました。
近づいてみると、ポスターはガラスへ直接貼られているのではなく、アクリル製のポスターフレームに収められ、ワイヤーで吊り下げられていました。
店舗設計と一体化して施工されたサインではなく、開店後に追加された販促フレームのように見えます。
駅ラチ内では掲出場所が限られる可能性がある
ITS’DEMOエキア志木店は、鉄道駅のラチ内にあります。
駅ナカでは、通行や安全上の条件から、店外にA型看板を置けない可能性があります。
その条件で通行人にSALEを知らせる必要があれば、ガラス面付近で訴求せざるを得なかった可能性があります。
現場の対応だけを見るのではなく、その対応を生んだ設計条件を見ます。
後付けの販促物を見つけたら、ほかに告知できる場所が設計されていたかを確認します。
Francfrancは販促場所をショーウィンドー内に設計している
Francfranc新宿サザンテラス店では、外側のガラス面の内側に、商品演出や販促表現を行える専用スペースがあらかじめ設けられています。
SALEポスターは右側のショーウィンドー内に収まり、それ以外のガラス面からは、店内の商品、照明、人の動き、空間の奥行きが見えます。入口上部のブランドロゴも認識できます。
つまり、「ブランド」と「販促」が共存できるように、販促の場所まで設計されています。
店舗外見を観察する限り、Francfrancでは販促場所が設計に組み込まれ、ITS’DEMOでは後付けの販促対応が行われているように見えます。
運営上必ず発生するSALEを、設計段階でどこまで想定したかに違いが表れています。
違いは施工費ではなく運営を先読みしたか
二つの店舗では、立地、規模、施工費、運営条件が異なる可能性があります。ただし、お金をかけた店の方がよい、という話ではありません。
高額な施工をしなくても、告知位置を決める、店内の見通しを妨げない場所にポスターフレームを常設する、交換しやすい仕様にする、といった工夫はできます。
営業時間など、常に店外へ伝える情報は、開店後に手作りしなくてよいよう、設計段階でサインとして施工しておく方法もあります。
大切なのは、販促、告知、サイン、備品が開店後に増えることを、設計者が先読みしたかどうかです。
設計者は開店後に増えるものまで設計する
良い店舗設計は、現場に「貼るな」と注意し続けなくても、貼らずに運営できる仕組みを用意しています。
店舗デザインは、完成時の写真を整える仕事ではありません。運営が始まれば、販促物、告知、備品が増え、清掃やメンテナンスも必要になります。
設計者の仕事は、開店する日までではありません。開店したあと、必要な販促物が加わっても、店の見え方が崩れないところまで設計することです。
秒判断ワーク|ガラスファサード編
次にガラス張りの店を見つけたら、次の三つを観察してみてください。
- 最初に目が止まったのは、店内か、販促物か
- SALEや営業時間を伝える専用の場所があるか
- 後付けの販促物があるなら、その背景にどんな設計条件があるか
ガラス面に何かが掲出されていたら、「貼るべきではない」で観察を終えず、貼らずに運営するための場所と仕組みが用意されているかを見てください。
設計は、開店日で終わりません。運営が始まる日から試されます。
街には、毎日たくさんの「秒判断」があります。
この「秒判断ノート」では、街で見つけた第一印象を少しずつ観察していきます。
📖 秒判断シリーズ
店舗は「何を見るか」ではなく、「どう見るか」で見え方が変わります。
このシリーズでは、街を歩きながら店を見る目を育てる観察法を紹介しています。
「秒判断」とは、店舗を見た瞬間に人が無意識に行う第一印象の判断を表す、福徳社独自の考え方です。
▶ 「秒判断とは?」はこちら
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