DXPO東京’26【夏】専門セミナーにて、表題のテーマで弊社代表・小泉がお話させていただきました。ご参加いただいた皆様、ありがとうございました。

熱心にメモを取ってくださる方も多く、終了後の名刺交換でも、
「店舗VIのガイドラインはあるのですが、現場ではPOPが増えてしまいます」
「店舗がポスターを貼りすぎて、ブランドとして何を伝えたいのか分からなくなっています」
「ガイドラインを作ったものの、店舗でうまく機能していません」
といったお話を何人もの方から伺いました。

今回のセミナーでお伝えしたかったことは、店舗を「かっこよくする」方法ではありません。
お客さまに選ばれやすい店舗を、ブランド戦略の一環としてどう設計するか。その考え方です。


「かっこいい店にしてください」と言われたら?

セミナーの冒頭では、参加者の皆さまにこんな設定で考えていただきました。

あなたはチェーン企業本部の店舗設計担当者です。
少し家賃は高いけれど、トラフィックも視認性も抜群の立地への出店が決まりました。
そこで社長から、「せっかくだから、かっこいい店にしてください」と言われました。

では、「かっこいい店」とは何でしょうか。もう少し具体的に聞くと、
「スターバックスみたいな店にしたい」と言われたとします。

スターバックスみたいな店とは?
木を使うことなのか。照明なのか。家具なのか。居心地なのか。

ここで大切なのは、デザインの好みから考え始めないことです。

店舗づくりの目的は、店をかっこよくすることではなく、お客さまに選ばれやすくすることです。
店舗は、お客さまに選ばれなければ、売上が立ちませんし、利益も出ません。


お客さまは、店を理解しようとはしてくれない

店舗をつくる側には、すべてに理由があります。
なぜそのサインを付けたのか。なぜそこに什器を置いたのか。なぜその色を使ったのか。

しかし、お客さまはその背景を知りません。
店の前を通りながら、「このサインには本部のこういう意図があるのだろう」などとは考えてくれません。
一瞬見て、分からなければ、そのまま通り過ぎ、記憶にも残りません。

そこで私は、実務上の考え方として「秒判断」という言葉を使っています。

店の印象は2秒で決まる

正確に2.0秒を計測する、という意味ではありません。
短時間・低関与・不完全な情報の中で、人は店舗について判断しているという意味です。

その短い時間に、お客さまは大きく3つのことを判断しています。

1.何の店か
2.自分に関係があるか
3.信頼できそうか

「何屋か分からない」「自分のための店か分からない」「なんとなく入りづらい」
そう感じた時点で、店舗は選択肢から外れてしまう可能性があります。


一つひとつは正しい。でも全部を伝えると、何も伝わらない

チェーン店舗でよく起きるのが、情報過多です。
商品説明。キャンペーン。割引。会員募集。予約受付。本部から届いたポスター。店舗独自のPOP。

それぞれを見ると、掲載する理由があります。問題は、
一つひとつは正しくても、全部を同時に伝えると、何が重要なのか分からなくなることです。

良い店舗は、単純に情報が少ない店舗ではありません。
情報の優先順位がひと目で分かる店舗です。

情報を追加する前に、「今、この場所で本当に伝える必要があるか」「入店判断に必要な情報か」「ほかの場所や方法で伝えられないか」と考える習慣をつけるだけでも、店舗の見え方はかなり変わっていきます。


自分の店舗を0点から10点で採点してみる

セミナーでは、参加者の皆さまにも具体的なチェーン店を一つ思い浮かべていただき、6項目で採点していただきました。

1.何の店か分かる
2.自分向けの店だと分かる
3.安心して入れる
4.重要な情報が伝わる
5.後から思い出せる
6.複数の店舗が同じブランドに見える

ご自身の店を、0点から10点で採点してみましょう

観察のポイントは、店舗を正面から見ないことです。
お客さまが自然に歩いてくる方向から見る。

店舗スタッフや本部担当者は、店を知りすぎています。何の店かも、どこが入口かも、何を売っているかも知っています。
その知識をいったん外して、お客さまの目で見る必要があります。


「スターバックスみたい」の正体

ここで、冒頭の話に戻ります。

なぜ私たちは、ロゴが大きく出ていなくても、スターバックスらしい店舗をスターバックスらしいと感じるのでしょうか。

店舗ごとに物件も面積もデザインも違います。それでも、

  • 同じブランドだと認識できる
  • そこで何をするのか想像できる
  • 商品、空間、接客に一貫性を感じる

という状態があります。つまり、
木を使うことが「スターバックスみたい」なのではありません。
ブランドの考え方が、店舗体験に翻訳されている。そこが重要です。

ブランド理念を店舗に落とし込むときには、

ブランドの理念
→ お客さまに提供する価値
→ 体験してほしいこと
→ 入口・サイン・色・素材・什器・ゾーニング
→ 営業開始後の運用

という順番で考えていきます。

店舗デザインだけを切り離して考えるのではなく、ブランド戦略の一部として考える必要があります。


店舗デザインは、完成した日で終わらない

新しい店舗が一番きれいなのは、いつでしょうか。
多くの場合、オープン当日です。

半年後には、
POPが増える。備品が増える。手作りの掲示物が増える。本部から新しい販促物が届く。
そして少しずつ、オープン時の意図が見えにくくなります。

これは、必ずしも店舗スタッフだけの問題ではありません。本部側が、

何を守るのか。
なぜ守るのか。
どこまで変えてよいのか。
例外を誰が判断するのか。

を決めていなければ、現場は判断できません。そのための一つの道具が、店舗VIガイドラインです。

ただし、ガイドラインの目的は現場を縛ることではありません。
現場が迷わず、ブランドとして正しい判断をできるようにすること。これが重要だと考えています。


選ばれる店舗をつくる3つの原則

今回のセミナーでは、最後に3つにまとめました。

1.説明する前に、判断できる状態をつくる

何の店か。
自分に関係があるか。
信頼できそうか。

お客さまが短時間で判断できる状態をつくります。

2.ブランド固有の特徴を、一貫して繰り返す

独自性だけでも、一貫性だけでも、記憶に残るブランドにはなりません。
異なる店舗でも「同じブランド」と認識されるための手がかりを、意図的に繰り返します。

3.完成後の運用まで設計する

店舗の見た目だけでなく、営業開始後のPOP、備品、販促物、例外判断まで含めて設計します。

選ばれる店舗をつくる3つの原則

私は、店舗デザインは、ブランドとお客さまが出会う確率を高める仕組みだと考えています。

デザインそのものを目的にするのではなく、ブランドが正しく認識され、お客さまに選択肢として検討してもらえる可能性を高める。そのための店舗設計です。


明日からできる「店舗を見る筋トレ」

セミナーの最後には、明日からできることとして、街で店舗を採点する方法をご紹介しました。

街を歩きながら、気になった店を、
・ 何の店か分かる
・ 入りやすい
・ 信頼できる
・ 記憶に残る

という目線で見てみます。

そして「良い」「悪い」で終わらず、なぜそう感じたのかを一つ言葉にする。
これを繰り返すだけでも、店舗を見る解像度は少しずつ上がっていきます。

私たちはこれを、「店舗を見る筋力を鍛える」と呼んでいます。
毎日続けていると、数年後には、選ばれる店舗をつくるための“秒判断”に必要な筋肉がついているはずです。


おわりに

当日は、講演後にも多くの方から具体的な店舗課題についてお話を伺いました。
短い時間だったため、十分にお話しできなかった方もいらっしゃいました。

福徳社では、店舗を展開する企業を対象に、

  • 店舗VIガイドラインの策定
  • 店舗デザイン戦略
  • 既存店舗のブランド・デザインレビュー
  • 店舗網戦略・出店戦略
  • 本部方針を現場で機能させるための運用設計

などをご支援しています。

「ガイドラインはあるが、店舗で機能していない」
「店舗ごとの見え方がばらついている」
「POPや掲示物をどう整理すればよいか分からない」
「新しい店舗デザインを、チェーン全体へどう展開すればよいか」
といった課題がありましたら、お問い合わせフォームよりお気軽にご相談ください。

当日お話しした内容に関連して、Amazon Kindleでは、『記憶に残る店舗デザイン(980円)』も刊行しています。

DXPOでお会いした皆さま、ありがとうございました。