前回の「屋号編」では、店名が読める、覚えられる、人に伝えられる、検索できるという流れを考えました。

読みやすい屋号も、覚えられるブランドロゴも、一日ではブランドになりません。
毎日同じ姿で現れるから、少しずつ顧客の頭の中に記憶されます。

では、一度覚えてもらった姿を、企業は自由に変えてよいのでしょうか。

ドンペン交代発表と同日中の撤回

2022年12月16日、ドン・キホーテは公式Xで、公式キャラクターを「ドンペン」から、プライベートブランド「情熱価格」のキャラクター「ド情ちゃん」へ交代すると発表しました。

続投を求める反応が相次ぎ、同日夜にはドンペンの続投が発表されました。
現在の公式サイトでも、ドンペンはドン・キホーテの公式キャラクターとして紹介されています。

ここまでは確認できる事実です。ここから、店舗VIと秒判断の視点で考えます。

ドン・キホーテの店舗と公式キャラクターのドンペンを通して、ブランドを識別する視覚的シンボルを考える画像
見慣れた姿は、店を一瞬で見分ける目印になっています。(写真:ドン・キホーテ那覇壺川店)

顧客が守ろうとした店の「目印」

ドンペンは、単なるマスコットではありません。
店舗の看板、外壁、店内POP、商品、広告、SNSなど、さまざまな接点に繰り返し現れます。

青いペンギンを見ただけで「ドン・キホーテだ」と分かる人もいます。
ドンペンは、顧客が店を一瞬で見分けるための「目印」になっています。

VI(ビジュアル・アイデンティティ)は、ブランドらしさを視覚的に伝える仕組みです。
ロゴだけでなく、屋号、色、形、素材、サイン、照明、キャラクター、空間デザインが組み合わさり、顧客のブランド認知を支えています。

シンボルから入店判断までの秒判断

店頭では、次のような処理が一瞬で起きています。

  1. 青いペンギンを見る
  2. ドン・キホーテだと識別する
  3. 過去の経験や、安さ、品揃え、楽しさへの期待を思い出す
  4. 入るか、通り過ぎるかを決める

ロゴを変えることは、見た目を変えることではありません。
顧客が無意識に使っていた、店を見分ける方法を変えることです。

企業のロゴやシンボルは、法的には企業が管理します。
しかし、その意味や記憶は、長期間の反復接触によって顧客の頭の中にも蓄積されています。その意味で、企業だけのものではありません。

社内の変更理由と顧客の使い方は違う

企業の中では、「古く見える」「今の戦略に合わない」「新しい事業や商品を強調したい」「経営方針を刷新したい」といった理由が、合理的に見えることがあります。

一方、顧客はロゴやキャラクターを経営戦略として見ていません。
「あの店だ」と瞬時に見分けるための目印として使っています。

新しいシンボルが定着するまで、以前と同じブランドだと気づきにくい、思い出しにくい、検索や再訪につながりにくいという状態が起こる可能性があります。

ロゴ変更で怖いのは批判よりも静かな離脱

ロゴやシンボルを変えたからといって、必ず売上が落ちるわけではありません。

ただ、店を見つけにくくなり、比較検討の場面で競合ブランドが先に認識されれば、選択肢から外れる可能性があります。顧客は必ずしも苦情を伝えません。何も言わず、別の店を選ぶことがあります。

ロゴ変更で最も怖いのは、批判されることではありません。
気づかれないまま、顧客の秒判断から外れることです。

変更が必要なら記憶の継承を設計する

法的な問題、不適切な表現、事業との著しい乖離、経営統合、重大な可読性・視認性の問題など、変更が必要な場合もあります。

そのときも、旧ロゴの色や形を一部継承する、複数の識別要素を同時に捨てない、移行期間を設ける、旧と新の関係を繰り返し説明する、店舗・Web・商品・SNSを連動させるといった配慮が必要です。

新しいデザインを決めるだけでなく、顧客に再学習してもらう時間と接点まで設計します。

秒判断ワーク|視覚的シンボル編

よく知っているチェーン店を一つ選び、次の五つを観察してください。

  1. 店名を隠しても、そのブランドだと分かるか
  2. 最初に何を見て判断したか
  3. それはロゴ、色、形、キャラクターのどれか
  4. その要素が消えても、同じ店だと気づけるか
  5. 新しい姿を覚えるまで、何回見直す必要がありそうか

ブランドは企業がつくります。
しかし、記憶の中で育てるのは顧客です。
だから、変更の便益は企業が得ます。変更後の再学習の負担は、顧客が負います。

ブランドを変える前に、企業が見るべきなのは新しいデザイン案だけではありません。
顧客が今の姿を、何のために使っているかです。

街には、毎日たくさんの「秒判断」があります。
この「秒判断ノート」では、街で見つけた第一印象を少しずつ観察していきます。


📖 秒判断シリーズ

店舗は「何を見るか」ではなく、「どう見るか」で見え方が変わります。
このシリーズでは、街を歩きながら店を見る目を育てる観察法を紹介しています。

「秒判断」とは、店舗を見た瞬間に人が無意識に行う第一印象の判断を表す、福徳社独自の考え方です。
「秒判断とは?」はこちら


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