消費者が「定着しなそう」な商業施設に分類された『イケア立川』~その理由と背景を消費者行動データから読み解く~

福徳社では、開業時に話題性の高かった首都圏大型商業施設につき、開業後1年以上を経過した現時点でどの程度消費者の日常的購買行動に定着したかを消費者行動から検証する独自リサーチ『商業施設利用実態調査2015』を実施しました。その結果の概要をお知らせします。

『イケア立川』は、本リサーチの分析結果では、『イオンモール幕張新都心』とともに【消費者が「定着しなそう」な商業施設】グループに分類されました。開業から1年少々とまだ新しいことから、リーセンシー(直近で利用したのはいつか)は当然に高いものの、フリークエンシー(利用頻度)が低いためです。今後、時間の経過とともにリーセンシーは自然に下がっていくため、近い将来「定着していない」商業施設のグループに入ってしまう可能性が高いと判断しました。

レポート「商業施設利用実態調査2015【イケア立川編】」では、リサーチ結果データの表やグラフとともに詳しく解説していますが、ここでは概要をご紹介します。

リサーチ結果(サマリー)
  • 『イケア立川』は、顧客定着率とフリークエンシーが調査対象施設中最も低く、調査対象施設との比較において、定着が進んでいるとはいえないのが現状です。家具という商材の購買サイクルが他の商材に比べて長い点も考慮すべきなのかもしれませんが、このままフリークエンシーが上がらず、開業後の時間経過ととともにリーセンシーが下がっていけば、将来的に「定着していない商業施設」グループに入っていく可能性があります。
  • 開業前後に広告やメディア露出を強化したにも関わらず、オープンから1年以上が経過した現段階で、消費者の忘却が比較的速いスピードで進んでいる点も、今後定着が進むかという観点からの懸念材料であるといえます。
  • 『イケア立川』の定着が進まない原因として、商圏が思うように広がらなかったことが考えられます。その理由は、『イケア立川』が、高速のインターチェンジ付近というイケアジャパンにとって標準的な立地を外れた駅近くの立地であることが考えられます。イケアが戦いにくい立地といえるかもしれません。
  • 『イケア立川』は、店舗の存在自体に関する認知度を商圏内で十分に高めるための継続的な情報発信を行うべきだと考えます。その際には、埼玉県からの来客が伸びていることなどに鑑みると、最新の商圏を把握することが重要だといえるでしょう。
リサーチ結果(詳細)

1.認知度

『イケア立川』を「知っている」と答えた人の割合は、全回答者(1都3県に住む男女合計)の21.4%にとどまり、調査対象施設中2番目に低い結果となりました。

  • 都県別に見ると、東京都では認知度が高かった。商圏外の消費者には認知されにくい傾向が読み取れる。
  • 性別では男女の間に有意差はなかった。
  • 性年齢別の差を見ると、30~40代女性の間で比較的認知度が高く、シニア男性の間では低かった。

開業直後だった前回調査(2014年6月)時点で『イケア立川』を「知っている」と答えた人の割合は32.3%でした。消費者による忘却が進む傾向がみられます。

  • 東京都では忘却がゆるやかである。
  • 神奈川県、千葉県、埼玉県ではまんべんなく忘却が進んでいる。商圏外の消費者は忘れやすい傾向が読み取れる。

2.利用経験率

『イケア立川』を「利用したことがある」と答えた人の割合は、全回答者(1都3県に住む男女合計)の6.7%と、低い値にとどりました。

  • 都県別の差を見ると、東京都で利用経験率が高く、神奈川県・千葉県では利用経験率が低い。
  • 男女別・性年齢別では、利用経験率に有意差はない。老若男女の幅広い客層であるといえる。
  • 『イケア立川』利用経験者プロフィールの特徴をみると、男女別・年齢別・婚姻の有無・職業別では全体との有意な差はなかった。老若男女幅広く来客しているといえる。居住都県別では、東京都からの来客が半分以上を占める。神奈川県、千葉県からの来客は少ない。

前回調査(2014年6月)時の『イケア立川』利用経験率と今回調査結果の差異をみると、利用経験率は1年間で2.4%伸びています。

  • 県別では、埼玉県からの来客が6.2%伸びた。新しい商業施設『ららぽーと富士見』利用経験者の34.8%が『イケア立川』利用経験ありと答えていることを参照すると、埼玉県南西部からの集客が伸びている可能性が考えられる。
  • 性年齢別では、シニア男女の利用経験率が伸びた。

3.利用経験者の利用状況

『イケア立川』利用経験者は、フリークエンシー(利用頻度)が低く、「定着した顧客」の出現率も低い結果となりました。現状において定着度が高いとは言い難く、このまま時間の経過とともにリーセンシーが下がっていけば、来年以降「定着していない商業施設」のグループに入ってしまう可能性があると考えられます。

  • 『イケア立川』利用経験者の54.5%が「開業直後に行った」と答えている。
  • 開業直後利用者の66.7%が、その後再び訪れている。
  • リピーター比率は51.5% である。一方、1回利用したきりの人が48.5%にのぼる。
  • フリークエンシーが低い。平均利用回数は1.94回で、調査対象施設中最も低い。
  • 定着率は9.1%で、調査対象施設平均中最も低い。
  • リーセンシー平均が6.5ヶ月と短いが、これは、開業後の経過時間が短いためである。
  • 利用経験者の今後利用意向では、今後利用意向の高い人が84.8%である。

4.他の商業施設との併用状況

商業施設利用実態調査2015【イケア立川編】では、『イケア立川』利用経験者のうち、他の調査対象商業施設の利用経験があると答えた人の割合(併用率)詳細に示しています。これを見ると、『イケア立川』利用経験者の地理的分布や買物行動範囲が想像できます。

  • 『イケア立川』利用経験者のうち、他の調査対象施設の利用経験があると答えた人の割合を集計したところ、広域から集客している『渋谷ヒカリエ』『東京ソラマチ東京スカイツリータウン』『ダイバーシティ東京』の併用率が高かった。これは、他商業施設利用者と同様である。
  • ターミナル駅近くに位置する『ビックロ』の併用率も高い。
  • 全体的に、電車で行きやすい商業施設との併用率が高そうである。
  • 今回の調査対象施設以外でよく利用する商業施設を自由回答で尋ねたところ、 『イケア立川』利用経験者の2割強にあたる7人が『イオンモールむさし村山』を挙げた。『三井アウトレットパーク入間』『イオンレイクタウン』の名前も挙がった。
  • 他の調査対象施設利用経験者にたずねると、中央線でつながる『キラリナ京王吉祥寺』ユーザーの2割強が『イケア立川』利用経験があると答えた。また、新しい商業施設『ららぽーと富士見』利用経験者の34.8%が『イケア立川』利用経験ありと答えており、併用率が最も高い。それ以外の商業施設ユーザーの間では、おおむね利用経験率は低い。

以上です。ご自身の印象と比べて、いかがでしたか?

これまでの大型商業施設は、施設の規模を大型化し、そのテナントミックスにより魅力を高めれば顧客を遠方からでも集めることができるという考え方に基づき、立地を主体的に創造してきました。

しかし、この首都圏の大型商業施設の利用実態調査を見ると、限られた領域に複数の大型商業施設の開発が進めば、単に施設の規模が大きく、希少性のあるテナントがあるという理由だけで、広域からの集客、更には、顧客の常連化が達成できるとは限らないということが考察できます。

また、開業前はもちろんですが、開業後も新たな情報を継続的に発信していくことが、施設そのものの認知度を維持・向上するために必要であることが考察できます。消費者は記憶した事柄を容易に忘却するものであり、何の刺激もなければ認知度は低下します。周囲に新たな商業施設が次々と開業すれば猶更です。

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