新しい物件の売上を予測するとき、AIや専門のシステムを使える企業が増えています。社内に売上予測の専門担当者がいる企業もあります。店舗開発担当者が一から計算するより、精度や作業効率の面で優れた方法を選べるなら、それを活用するべきでしょう。

それでも福徳社は、店舗開発担当者が自分のパソコンでExcelを使い、売上予測を一度作ってみる研修を続けています。

正式な出店判断に使う数字を、担当者全員が自作するべきだと考えているからではありません。予測を依頼し、その結果を使って物件を提案する人にも、予測がどのように作られるかを知っていてほしいからです。

予測値を受け取る人にも、問いがある

たとえば、ある物件について「予測年商は1億円です」と示されたとします。店舗開発担当者は、その数字を会議で説明し、賃料などの経済条件と照らし合わせ、出店を進めるかどうかの議論に参加します。

このとき必要なのは、数字を読み上げることだけではありません。

似た条件の既存店はどこか。商業施設の集客力をどう反映したか。競合店や自社の既存店の影響は入っているか。この物件ならではの入口の位置や見え方は、数字に反映されているか。予測の前提が違えば、判断も変わるかもしれません。

開発担当者が予測の仕組みを知らなければ、こうした確認は難しくなります。結果として、精緻な予測値が手元にあっても、その数字を物件の実態と結び付けて使い切れないことがあります。

Excelで「一度作る」ことに意味がある

福徳社の研修では、受講者がExcelを使い、複数の要因と売上の関係を調べる重回帰分析に取り組みます。既存店のデータを並べ、どの情報を予測に使うかを考え、計算結果と実際の売上の差を確かめます。

操作そのものが目的ではありません。手を動かすと、売上予測には「どの店舗を比較対象にするか」「何を要因として扱うか」「予測しきれない差をどう見るか」という判断が含まれていることが分かります。

分析結果が出ても、それで物件評価が終わるわけではありません。予測値と既存店の実績が大きくずれた店舗があれば、なぜずれたのかを調べる必要があります。データの誤りかもしれませんし、数値にしていない立地条件が影響しているかもしれません。

こうした経験があると、AIや専門家が出した数字に対しても、より具体的な問いを立てられるようになります。

専門家に頼る力も高まる

大きなチェーン企業では、売上予測を専門部署や担当者が担い、店舗開発担当者はその結果を使うことがあります。これは合理的な役割分担です。

ただし、物件を現地で見た担当者だけが気づく情報もあります。施設内の動線、通りからの見え方、近隣の出店計画などです。予測の仕組みを理解していれば、そうした情報のうち何を専門担当者に伝えるべきか、予測値について何を確認すべきかが明確になります。依頼と確認の往復が的確になれば、社内の仕事も進めやすくなるでしょう。

私たちが大手チェーン企業で行う研修でも、担当者自身がExcelで分析を試す時間を設けています。日々の正式な予測業務を担当しない受講者にとっても、その経験は予測担当者との対話や、社内での数字の説明に役立ちます。

社内に専門担当者がいない企業なら、この理解はさらに重要です。外部に依頼する場合も、自社で簡易的に試算する場合も、前提と限界を確かめる力が必要になるからです。

予測を「使える数字」にするために

店舗開発担当者全員が、高度な予測モデルを作れるようになる必要はありません。大量のデータを処理し、予測を継続的に運用する仕事には、専門家や適切なツールの力を借りるべきです。

一方、予測値を出店判断に使う人は、その数字が何を織り込み、何を織り込んでいないかを説明できる必要があります。Excelで一度、自分の手で予測を作る実習は、そのための入口です。

AIが予測値を速く提示できるようになるほど、開発担当者には数字と現地で見た物件を結び付ける力が求められます。その力を持つ人が専門家やAIを使えば、売上予測は会議に提出する数字から、出店をよりよく判断するための材料になるのではないでしょうか。