『串カツ田中ホールディングス』が『ピソラ(PISOLA)』を買収、というニュースに関連する記事が見受けられますが、ここでは、M&A先であるピソラの”出店”の観点で迫ってみたいと思います。
『ピソラ(PISOLA)』は近畿地方・東海地方のロードサイドを中心に62店舗を展開する、重飲食のレストランです。同社のWebサイト上にある店舗一覧は以下の通りです。
本社は関西圏と中京圏の中間にある滋賀県草津市で、関西圏と中京圏に多くの店舗が集中しています。一方で静岡県を挟んで、関東地方にも進出しており、一都三県に既に16店舗を出店済みです。


西日本の大阪・愛知といった市場規模の大きい市場に出店を集中させながら店舗数を増やしたのち、静岡県を経由して、首都圏にも市場を拡大し店舗数を増やしつつあることが分かります。この広域展開の仕方のみに着目すると、この企業は”好意的”に捉えることができます。
しかし、個々の店舗の詳細を調べたわけではありませんが、上記のなかの、首都圏の店舗名だけを概観すると、首都圏でのエリア選定(出店する自治体・エリアの選定)には計画性があまり感じられず、出店機会・物件のある場所に出店しているに過ぎないのではないか、との印象を受けます。
その結果、店舗の周辺の人々には「よく知らない店舗が最近開いた」という印象を持たれやすく、また、ロードサイド立地が多いとのことも手伝って、店舗と店舗の地理的な隔たりが大きくなり、首都圏での屋号の知名度がなかなか高まらず、出店にともなって売上がなかなかついてこない状況に陥っているのではないかと推察します。
さて、出店にはエリア選定のほかに、立地・区画の選定がともないます。選定したエリアの中で、具体的などの場所に、どのような店舗を出店するかという判断です。
八王子中野店を例に、その立地・区画を勝手に評価してみます。
同社HPにある地図は以下のとおりです。八王子中野店の『中野』の地名を知る人が、地元の人以外に多くいるとは考えにくいこと、周辺に小・中学校の名前があることなどから、地元の人が行き来する地域であることが分かります。
こうした地元の人々の『日常生活圏』では、得てして『有名チェーンで、普段着・サンダルでも行けるような”無難な”店舗が求められ、その反面、目新しくて珍しい、しかも、オメカシして行かなければならないような”特別な”店舗は必要とされていない』と考えられます。

八王子中野店は2つの道路に接していることが分かります。1つは、地図上に名前がある『かすみ学園通り』で、もう一方は、(地図上に名前がありませんが)『秋川街道』です。
『秋川街道』は武蔵五日市駅方面と八王子市街を結ぶ、通行量が安定している通りで、そこに『かすみ学園通り』が接続するT字路に八王子中野店は面しています。
次の写真は、八王子中野店付近の秋川街道の様子です。『すき家』、『眼鏡市場』、『リンガーハット』、(自転車)の『asahi』、学習塾の『明光義塾』といった全国チェーンが出店していることが分かります。写真には写っていませんが、後方には『マクドナルド』、『ガスト』、『シャトレーゼ』なども出店しています。

解像度を上げて”区画”レベルの立地評価に移ります。
次の地図は八王子中野店の周辺を拡大したものです。地図で上(北)方向に行くと武蔵五日市、下(南)方向に行くと八王子市街です。東楢原というT字路に接していることが確認できます。

次の写真は、八王子市街に向かって秋川街道を走ってきて『東楢原のT字路』を手前から見た景色です。目を凝らすと写真上で八王子中野店の看板を確認することができます。
しかし、秋川街道沿いに入口はなく、よって入店することはできません。これは反対方向からも同様です。つまり、看板が面しているものの、秋川街道からの入店はまったく期待できず、入店する場合は『かすみ学園通り』を通るしかないのです。

次の写真は、『かすみ学園通り』から見た八王子中野店です。
前面道路の法定速度は時速40Kmで、反対車線からの入店は可能であることはプラス要因です。
しかし、マイナス要因としては、八王子市街に向かって右折する車両が通過する車線に面しており、しかも、勾配が大きい斜面に面していることが分かります。東楢原T字路の信号手前に位置するため、T字路の信号が「青」のときは加速し、「赤」ときは減速し停車する地点です。また、前面道路に対して間口を広くとっているにもかかわらず、入口は一か所しかなく、幅も十分に広いとは言えず、入りやすさが感じられません。

実を申しますと、この区画はかつて『ステーキのどん』も出店していたところで、近年、何回か入れ替わりのあった区画です。改めて見たことは無かったのですが、見た目とは裏腹にマイナス要因の多い区画であることが分かりました。

ここまでのポイントをまとめると、八王子中野店は①西日本が地盤の知名度が不十分なチェーン店が出店するには、現時点では時期尚早なエリアで、”場違い感”がある、②一見すると利用しやすいように見えるが、実際は利便性が劣る区画である、と言えます。
全ての店舗を確認したわけではありませんが、一事が万事という言葉もあり、『ピソラ(PISOLA)』の店舗の立地は良好とはいえないようです。
チェーン店を買収する場合は、個々の店舗の立地を的確に評価することが必要です。(加藤 拓)