元いた会社について採りあげることを避けてきたのですが、関連するご質問をいただきましたので、また、長い年月も経ちましたので、そろそろ古いこだわりは捨てて、敢えて書いてみたいと思います。
そのご質問とは、「スターバックスの(東京23区で)江戸川区への出店がなかなか実現しなかったのはなぜか?」というものでした。
表1は東京23区と店舗数を一覧にしたものです。店舗数の出所は同社HPで2025年8月30日時点のものです。かつてはこのような数表を頻繁に作成してコメントを加えていたのですが、久しぶりに眺めてみると一桁台の区が半数近い11もあり、意外と多い印象を受けました。
ご質問のあった江戸川区は4店舗と出店があまり進んでいないことが分かりますが、順位は23区中で21位です。最も少ない23位は荒川区でわずか2店舗しかありません。22位は意外にも中野区で3店舗です。
なぜこうなるのかについて、今回は中野区を除いて考えてみたいと思います。
表1 東京23区のスターバックス店舗数
| 区 | 店舗数(2025/8/30) |
| 千代田区 | 48 |
| 港区 | 44 |
| 渋谷区 | 42 |
| 新宿区 | 32 |
| 中央区 | 27 |
| 世田谷区 | 22 |
| 豊島区 | 16 |
| 江東区 | 14 |
| 品川区 | 13 |
| 台東区 | 10 |
| 大田区 | 10 |
| 目黒区 | 10 |
| 文京区 | 9 |
| 墨田区 | 7 |
| 杉並区 | 6 |
| 板橋区 | 6 |
| 足立区 | 6 |
| 北区 | 5 |
| 葛飾区 | 5 |
| 練馬区 | 5 |
| 江戸川区 | 4 |
| 中野区 | 3 |
| 荒川区 | 2 |
東京23区ならどこの区も同じではなく、チェーン店としては攻めにくい(出店しにくい)エリア(区)というものがあります。在職中だった2000年~2010年当時は都内にハイペースで出店していましたが、23区のなかでも総じて東側に位置する江東区、江戸川区、葛飾区、荒川区、足立区はなかなか出店が進んでいませんでした。何となく売れない感じがしていたのは確かで、それは、当時のスターバックスが売れる立地、より正確には、必要とされる売上高や投資回収期間などの“厳しい条件”をクリアする立地、が当時はあまりなかったためです。
当時も存在していた立地で、現在はスターバックスが出店している立地であったとしても、当時は出店が難しいと判断せざるを得ないことがあったのです。
当時は駅ビルや大規模再開発ビル、郊外型のショッピングセンターなどの商業施設の数が現在と比べてまだ少なく、それらが新たに開業すると広域からの集客が期待でき、その結果、スターバックスも高い店舗売上を獲得することができました。そうした“新しい施設”開業の流れに乗って出店を積み重ねていた側面が強かったため、“新しい立地”の開発が当時はまだ少なかった地域は、出店があまり進まなかったのです。
現在も店舗数が上位の中央区や新宿区などの大繁華街やターミナル駅が多くある区に比べて、東側の江東区、江戸川区、葛飾区、荒川区、足立区の優先順位が相対的に低くなることは仕方ないことでした。
当時はまだスターバックスの顧客基盤も現在ほど十分に大きくはなっておらず、既存店の近くに出店すると、既存店の顧客が新店を利用し、既存店の売上が下がる事態が生じやすかったことも影響しています。ある鉄道のターミナル駅に出店し、その後、同じ鉄道の沿線の駅に新たに出店しようとすると、ターミナル駅の売上が下がるという運営部門からの指摘を覆すことができず、最終的に出店を断念するようなこともありました。
現在のスターバックスの店舗を見ると、当時だったら絶対に出店はあり得ない場所だなと思うこともしばしばです。長い時間が経過する中で、スターバックスの顧客基盤も大きくなり、それに伴い、スターバックスが出店する上での条件をクリアするような立地が、当時はあり得ないエリアにも新たに開発されたことが考えられます。
一例を挙げると、2店舗しかない荒川区の「LaLaテラス南千住店」があります。
複数の鉄道が乗り入れる南千住駅ですが、駅の特徴から出店が考えにくく、周辺の商業施設として開業した「LaLaテラス」も、2004年当時にはスターバックスが高い売上を期待できる商業施設とは考えにくかったため、出店は見送られました。しかしその後、スターバックスの店舗数が順調に増え、地域の人々にとっての利便性が高い店舗が求められるようになると、同じ商業施設でもスターバックスの出店条件をクリアできるようになり、2023年に荒川区での初出店となったようです。
江戸川区の一号店は、2016年に小岩駅の駅ビル「シャポー小岩」に開業しています(参考)。
総武線沿線の千葉駅や船橋駅などのターミナル駅への出店を優先する段階では、駅ビルに出店できるとしても優先順位は下がってしまう駅で、これも仕方のないところでした。その後、小岩駅周辺の再開発計画も具体化する中で、駅周辺も新しくなる見通しが立ち、ようやく出店に至ったものと思われます。
以上、「スターバックスの(東京23区で)江戸川区への出店がなかなか実現しなかったのはなぜか?」という問いに対して、主に「会社の事情」の観点から回答を試みました。
「会社の事情」以外にも、スターバックスに限らず多くのチェーンにとって、江東区、江戸川区、葛飾区、荒川区、足立区には出店しにくい理由があり、それにより、中野区にスターバックスの店舗が少ないことも説明ができるのですが、それは別の機会にしたいと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。(加藤 拓)

