ゴールデンウィーク明けの「週刊 店舗開発クリップ」では、整骨院・接骨院の出店戦略を取り上げました。
前回は学習塾の出店戦略をテーマにしましたが、学習塾と整骨院・接骨院には、いくつか共通点があります。いずれも小規模事業者が多く、参入障壁が比較的低く、地域内に多数の事業者が乱立しやすい業界です。
一方で、学習塾にはすでに全国チェーンが一定数存在するのに対し、整骨院・接骨院ではチェーン化は進みつつあるものの、全国的に同一ブランドで強いプレゼンスを持つチェーンは、まだ限られているように見えます。
その意味で、整骨院・接骨院は「これからチェーン化が進む可能性のある業態」として見ることができます。
今回のきっかけは、東京商工リサーチが公表した「マッサージ業」の倒産動向です。2025年度のマッサージ業の倒産は108件となり、1996年度以降の30年間で最多だったとされています。倒産原因では「販売不振」が84.2%を占め、108件すべてが負債1億円未満でした。つまり、小規模事業者を中心に、売上不振による淘汰が進んでいると考えられます。
ここでいう「マッサージ業」には、整骨院・接骨院、鍼灸院、あん摩・マッサージ・指圧、整体、カイロプラクティックなどが広く含まれます。厳密には業態ごとに違いがありますが、今回はその中でも整骨院・接骨院の出店戦略に焦点を当てます。
整骨院・接骨院の好立地とは何か
店舗開発の視点でまず考えるべきは、「整骨院・接骨院にとっての好立地とは何か」という点です。
良い立地は、事業者が決めるものではありません。利用するお客さまの行動によって決まります。
業態によって、お客さまの利用行動は大きく異なります。たとえば、買い物や飲食のついでに立ち寄られる業態もあれば、その店舗自体を目的地として利用される業態もあります。
整骨院・接骨院は、後者に近い業態ではないでしょうか。
もちろん、駅前や商業施設内にあれば、通勤・買い物のついでに利用されることもあるでしょう。しかし、利用者の多くは、肩こり、腰痛、けが、産後の骨盤矯正など、身体の不調を抱えて来院します。施術を受けた後にそのまま買い物や仕事に向かうというより、一度自宅に戻る行動の方が自然に思われます。
つまり、整骨院・接骨院は「ついで利用型」というより、「直行直帰型」の性格が強い業態と考えられます。
そう考えると、重視すべき立地は、単に人通りの多い駅前だけではありません。むしろ、自宅から近い、帰宅動線上にある、自転車で行きやすい、車で入りやすい、駐車しやすい、といった生活圏からの通いやすさが重要になります。
さらに、整骨院・接骨院は一度きりではなく、一定期間、繰り返し通うことが多い業態です。したがって、「一度なら行ける距離」ではなく、「何度も通っても負担にならない距離」であることが求められます。
この点は、飲食店や物販店の立地評価とはかなり異なります。
場所が良いだけでは足りない
ただし、整骨院・接骨院の場合、場所が良いだけでは十分ではありません。
もう一つ重要なのが「入りやすさ」です。
整骨院・接骨院は、身近にあるにもかかわらず、初めて利用する人にとっては心理的なハードルが高い業態です。何をしてくれるのか、料金はいくらか、どのような先生がいるのか、施術の流れはどうなっているのか。外から見ただけでは分かりにくいことが多いのです。
中がまったく見えないと不安になります。一方で、施術中の様子が外から見えすぎても抵抗があります。この「見えなさ」と「見えすぎ」のバランスは、整骨院・接骨院の店舗づくりでは意外に重要な論点です。
この心理的な入りづらさを下げるには、料金表示、施術内容の説明、初回相談のしやすさ、スタッフの見え方、外観の清潔感など、店舗単体でできる工夫もあります。
しかし、もう一つ大きな方法があります。
それは、多店舗化によって、生活圏の中でブランドを見かける回数を増やすことです。
人は、何度も見かけるものに対して少しずつ慣れていきます。最初は入りにくかった店でも、通勤途中や買い物途中に何度も見かけているうちに、「あの店は何をしてくれるのだろう」と認知が進みます。そして身体の不調が出た時に、選択肢として思い出される可能性が高まります。
ここに、整骨院・接骨院がチェーン化する意味があります。
地域集中型チェーンが生まれている
実際に、整骨院・接骨院業界では、地域集中型のチェーンが登場しています。
たとえば、「ヒューマンアジャスト」は2024年9月にTOKYO PRO Marketへ上場した企業で、接骨院・鍼灸院運営、人材紹介、療養費請求代行などを手がけています。2024年3月期の売上高は約19.5億円、直近2026年3月期の売上高は29.8億円となっており、売上規模を拡大しています。
同社は複数の屋号で展開しており、一般的なチェーン店のように同一ブランドが街中に並ぶ形とは少し異なります。しかし、複数拠点を運営する企業体として、整骨院・接骨院業界のチェーン化を象徴する存在の一つといえます。
一方、「ほねごり」は、同一屋号での展開が目立つチェーンです。神奈川・東京・埼玉を中心に店舗を広げ、青と黄色の視認性の高い店舗デザインやゴリラのマークによって、ブランドとして認識されやすい外観を作っています。
ほねごりは、「治療院カレッジ」も展開しており、技術だけでなく経営や育成にフォーカスしたノウハウを提供していることを打ち出しています。
これは、単なる出店数の拡大ではなく、人材育成、院長育成、運営ノウハウの標準化まで含めた「チェーン化」の動きと見ることができます。
直行直帰型業態でも、店舗網には広がりがある
整骨院・接骨院は、基本的には生活圏密着型の業態です。
しかし、チェーン化が進むと、立地戦略には新しい可能性も出てきます。
たとえば、普段は自宅近くの院を利用している人が、勤務先近くや滞在先近くの同じチェーンの院を利用できるようになれば、利便性は大きく高まります。これは、単独院では実現しにくいチェーンならではの価値です。
もちろん、施術情報の共有、顧客管理、予約システム、スタッフ間の技術標準化など、実現には多くの課題があります。しかし、店舗網として考えれば、「生活圏の中にある院」だけでなく、「生活圏と職場・移動先をつなぐ院」という考え方も出てくるはずです。
このように考えると、整骨院・接骨院の出店戦略は、単に「駅前がよい」「住宅地がよい」という話では終わりません。
- どのエリアで認知を作るのか。
- どの程度の店舗密度が必要なのか。
- 同一ブランドで展開するのか、複数屋号を活かすのか。
- 生活圏内の需要をどうカバーするのか。
- 競合が多いエリアで、どのように入りやすさを作るのか。
こうした問いを、店舗網全体で考える必要があります。
乱立業態ほど、出店戦略の差が出る
整骨院・接骨院は、潜在需要のある業態と考えられます。肩こり、腰痛、身体の不調、産後ケアなど、日常的な悩みを抱える人は多く、潜在需要は決して小さくありません。
一方で、参入障壁が低く、小規模事業者が乱立しやすい業態でもあります。だからこそ、売上不振による淘汰も起こりやすいのです。
このような業界では、個店の技術力や接客力だけでなく、出店戦略の差が業績に表れやすくなります。
とくに重要なのは、「通いやすさ」と「入りやすさ」を店舗網としてどう設計するかです。店舗開発担当者の視点では、次のような論点を出店基準に落とし込む必要があります。
- 生活圏から通いやすい場所に出す。
- 繰り返し利用に耐える距離感を考える。
- 見かける回数を増やし、心理的ハードルを下げる。
- 同一ブランドとして認知される外観・サインを整える。
- 人材育成や運営ノウハウを標準化し、多店舗展開に耐える仕組みを作る。
これらを積み重ねることで、整骨院・接骨院は、個人院の集合体から、地域に根差したチェーン業態へと変化していく可能性があります。
店舗開発の視点で見ると、整骨院・接骨院は非常に興味深い業界です。
「どこに出すか」だけでなく、「どの生活圏を、どの密度で、どのブランド認知で押さえるか」。この問いに答えられる企業が、乱立業態の中で次の成長ステージに進んでいくのではないでしょうか。
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