今週の「週刊 店舗開発クリップ」では、パチンコ店の出店を取り上げました。
パチンコ業界というと、かつては「駅前にある」「郊外ロードサイドに大きな店がある」「派手な看板が目立つ」といったイメージを持つ方が多いかもしれません。
しかし、店舗開発の視点で改めて見ていくと、現在のパチンコ店は非常に厳しい出店環境に置かれています。
今回のテーマで特に重要なのは、パチンコ店の新規出店が難しくなる一方で、その周辺にコメダ珈琲店やシャトレーゼのような外食・物販チェーンが増えていることです。
一見すると無関係に見えるこの動きは、実はロードサイド不動産の再活用という点でつながっています。
パチンコ業界は、かつて巨大な娯楽産業だった
パチンコ業界は、かつて非常に大きな市場でした。
全盛期には参加人口が約3,000万人、市場規模は約30兆円とも言われ、駅前や郊外にパチンコ店を構えれば多くの人が来店する時代がありました。
社会全体の娯楽の選択肢が今ほど多くなかった時代、パチンコは手軽なレジャーであり、暇つぶしでもあり、日常的な娯楽でもありました。
しかし、その後、業界構造は大きく変わっていきます。
1990年代後半以降、ユーザーは徐々にヘビーユーザー化し、遊技台も高度化・大型化していきました。さらに、スマホゲーム、動画配信、ネットサービスなど、生活者の時間を奪う代替娯楽が増えました。
その結果、参加人口は大きく減少し、ホール数も最盛期の半分以下になっています。
ここで店舗開発上の重要なポイントは、市場が縮小しただけではなく、パチンコ店として成立するために必要な店舗条件が大きく変わったことです。
最初に消えたのは、駅前の狭小店だった
パチンコ店の減少を、単に「業界が縮小した」と見るだけでは不十分です。
店舗開発の視点では、どのような不動産タイプが先に淘汰されたのかを見る必要があります。
まず厳しくなったのは、駅前の狭小店舗です。
かつては、駅前の小さなビルに入るパチンコ店が多くありました。1フロアが狭く、複数階に分かれ、地下や空中階を使って営業しているような店舗です。
しかし、遊技台が大型化し、重量も増し、電気容量やレイアウト変更への対応が必要になると、こうした古い狭小物件では対応が難しくなります。
床の耐荷重、電気容量、台の入れ替え動線、フロア効率。これらがボトルネックになると、新台を十分に導入できず、ヘビーユーザーを呼び込めなくなります。
さらに駅前立地は賃料も高い。売上が下がり、設備投資が重くなり、家賃負担も大きいとなると、一定の規模を持たない店舗から淘汰されていくのは自然な流れです。
郊外ロードサイドでも、駐車場を十分に持たない中小規模店は厳しくなりました。
つまり、現在のパチンコ店は「駅前なら何でもよい」「ロードサイドなら何でもよい」という業態ではなくなっているのです。
新規出店が難しい理由は、法規制と立地競争にある
パチンコ店の新規出店が難しい理由として、まず都市計画法上の用途地域の制約があります。
自治体によって扱いに違いはありますが、パチンコ店が出店可能な用途地域は、商業地域、近隣商業地域、準工業地域、工業地域などに限られます。
ここで重要なのは、これらの用途地域は、パチンコ店だけでなく、ほとんどの商業施設やチェーン店舗にとっても魅力的な場所だということです。
駅前、商店街周辺、幹線道路沿い、工業地帯周辺。いずれも飲食、物販、ドラッグストア、フィットネス、リユース、カフェ、クリニックなど、多くの業種が出店したい立地です。
つまり、パチンコ店が出店できる土地は、そもそも競争が激しい土地でもあります。
加えて、風営法による距離規制もあります。学校、病院、図書館、児童福祉施設、保育園、幼稚園など、保護対象施設の周辺には新たに出店しにくい。
近年は認定こども園や認可保育園など、地域に必要な公共的施設が増えています。これは地域にとっては重要なことですが、パチンコ店の新規出店という観点では、出店可能エリアをさらに狭める要因になります。
そのため、新規にゼロからパチンコ店を出すことは極めて難しく、過去に規制をクリアして営業していた場所、すでにパチンコ店が存在するエリアを厳選して出店するしかない、という状況になっています。
生き残るのは、要塞型ロードサイドと駅前一棟ビル
では、現在生き残っているパチンコ店はどのような不動産タイプなのでしょうか。
大きく分けると、二つあります。
一つ目は、郊外ロードサイドの要塞型店舗です。
主要幹線道路沿いにあり、敷地が広く、自走式の大型駐車場を持ち、1店舗で1,000台から2,000台規模の遊技台を設置できるようなメガホールです。
こうした店舗は、電気設備、セキュリティ、台の搬入・保管、駐車場、バックヤードなどを一つの敷地に集約できます。大型化によって、運営効率を高めることができるわけです。
二つ目は、主要ターミナル駅前の好立地一棟ビルです。
駅前の狭小店が減ったことで、周辺需要を吸収できる一棟型の大型店舗が残りやすくなっています。複数フロアを使い、フロアごとにテーマ性を持たせ、非日常性や体験性を高めることで、単なるパチンコ店ではなく「駅前の大型アミューズメント施設」として再定義されていると見ることができます。
逆に言えば、中途半端な規模の店舗は残りにくい。
パチンコ店の店舗網は、狭小店が消え、巨大店に集約される方向へ進んでいると考えられます。
なぜコメダ珈琲店やシャトレーゼが増えるのか
ここからが、店舗開発として興味深い部分です。
パチンコ店は、新規出店が難しく、既存店の維持にもコストがかかります。しかし、パチンコ業界の企業は、駅前やロードサイドに良い不動産を持っています。
特に郊外ロードサイド型のパチンコ店は、敷地が広く、駐車場も大きい。かつてはパチンコ単体で使っていた敷地の一部が、今では余剰地や活用余地として見えてきます。
そこで出てくるのが、他社フランチャイズへの加盟です。
パチンコホール企業が、コメダ珈琲店、シャトレーゼ、ゴンチャ、ラーメン店などのFCに加盟し、自社敷地や遊休地、併設レストラン跡地などを活用するケースが増えています。
これは、前回取り上げた紳士服業界とも似ています。
紳士服業界では、スーツ需要が縮小する中で、ロードサイド大型店舗をどう使い直すかが課題になっていました。パチンコ業界でも同じように、過去に獲得したロードサイド不動産をどう再活用するかが重要になっています。
なぜコメダやシャトレーゼと相性がよいのか。
まず、どちらも車利用との相性が高い業態です。コメダ珈琲店は郊外ロードサイドで強く、駐車場付き店舗に適しています。シャトレーゼも、ケーキ、アイス、菓子などをまとめ買いする利用が多く、車で来店しやすい立地が重要です。
また、パチンコ店と客層が異なる点も重要です。
パチンコ店の主な利用者とは別に、コメダやシャトレーゼは主婦層、ファミリー層、シニア層を呼び込むことができます。平日昼間など、パチンコ単体では取り込みにくい時間帯に別の需要を作ることができます。
つまり、同じ土地で、異なる客層と異なる時間帯の需要を重ねることができるわけです。
これは不動産活用として非常に合理的です。
店舗開発担当者が見るべきポイント
今回のパチンコ業界から学べることは、単に「パチンコ店が減っている」という話ではありません。
成熟・縮小する業界では、過去の成長期に獲得した店舗網が、そのまま負担になることがあります。
しかし同時に、それは資産でもあります。
幹線道路沿いの広い敷地、駐車場、視認性、地域での認知、既存の建物、法規制をクリアした営業履歴。これらは簡単には新規取得できません。
問題は、それを従来業態だけで使い続けるのか、別の需要を重ねて再定義するのかです。
パチンコ店の跡地や余剰地に、コメダ珈琲店やシャトレーゼが増える背景には、単なるFC加盟ブームではなく、ロードサイド不動産の再編集という構造があります。
店舗開発担当者は、業界を見るときに「どの企業が何店舗あるか」だけではなく、その店舗網がどのような不動産条件を持ち、今後どの業態に転用可能なのかを見る必要があります。
市場が縮小しても、立地価値が消えるわけではありません。
むしろ、業態価値が下がったときに、立地価値がどのように再評価されるかが問われます。
パチンコ業界は、すでに単なるパチンコホール業ではなくなりつつあります。郊外では、ロードサイド不動産を活用した外食・物販・サービスの複合化が進み、駅前では大型一棟ビルを使った体験型アミューズメント施設としての再定義が進んでいます。
これは、紳士服業界と同じく、成熟業界が「店舗網をどう使い直すか」に直面している事例だと考えられます。
出店戦略は、新しい店を出すことだけではありません。
すでに持っている場所を、次の市場構造に合わせてどう活かすか。パチンコ店の出店を見ることは、ロードサイド立地の未来を考えるうえで、重要な題材ではないでしょうか。
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