学習塾の出店戦略はどこへ向かうのか

ゴールデンウィーク最終日のYouTubeライブ「週刊 店舗開発クリップ#4」では、教育産業、とくに学習塾業界について取り上げました。

学習塾業界は特別な資格が不要で参入障壁が低く、個人から大手まで様々な規模の企業が乱立し、新陳代謝が非常に活発な業界です。

その中で今回は、個別指導塾「TOMAS(トーマス)」などを展開するリソー教育に注目します。同社は直近の決算において、期初計画の売上高を下回り、固定費の増加によって減益となったことを発表しました 。かつて高収益・高配当を誇った同社に、出店戦略の観点からどのような変化が起きているのでしょうか。その変遷と最新の動きを紐解きます。

かつての勝ちパターン:首都圏でのドミナント戦略

リソー教育(TOMAS)が業績を伸ばしていた時期の出店戦略は、非常に理にかなったものでした。

  • 一都三県への集中: 人口が密集する首都圏に集中的に出店し、強固なドミナント(地域内での高シェア)を形成していました 。
  • 富裕層向け駅前立地: 駅前に立地を構え、富裕層をターゲットにすることで高い顧客単価を維持していました 。

この効率的な出店と高い収益性により、業績は好調に推移していました 。

転換点となった全国への広域展開

しかし、2012年頃から、リソー教育の出店戦略には大きな変化が起こります。
2000年代に子会社化した「名門会」の店舗網を一気に全国へと広げ始めました 。札幌、広島、岡山、兵庫と、立て続けに広域への出店を進めたのです。

現在の名門会の展開エリアを見ると、関東や関西にはある程度の店舗数があるものの、北海道は1店舗のみ、東北や中国・四国地方もわずか数店舗にとどまっており、少数店舗が広域に点在しています。その後追加出店が進んでいないことがわかります。このような店舗網の状態が続くと、経営効率が悪化し、収益性は低下しやすくなります。

一般的に、チェーン店経営では、店舗が集中しているほど、エリア内で密度が高いほど、効率が上がります。逆に、少数店舗が広域に点在する状態になると、運営効率低下や、管理コストの増加、ブランドの浸透不足が起こりやすくなります。経営学では、このように「少数の店舗を広域に点在させる」ことは『拡大のリスク』と呼ばれる考え方です。
つまり、「広げること」自体が問題なのではなく、「密度を伴わない広がり」が問題なのです。

コロナ禍による環境変化と「重い賃料負担」

さらに、コロナ禍を経て学習塾業界を取り巻く環境は大きく変わりました。

  • オンライン授業の普及: ZOOM等を活用し、生徒も講師も「どこでも授業ができる」環境が当たり前になりました 。
  • 立地ニーズの多様化: 必ずしも駅前である必要がなくなり、生徒の生活圏内(自宅と駅の間などの日常動線上)へ大手も進出するようになりました 。

一方で、リソー教育は依然として「都市部の駅前立地」に店舗が集中しています 。地価上昇、賃料上昇の流れの中では、この駅前への集中は賃料負担の増加という形で跳ね返ってきます 。同社の売上に占める賃料比率は約12%に達しており(低く抑えている企業は8%前後)、これが決算発表にあった「固定費増加による収益性低下」の大きな要因になっていると考えられます 。

ヒューリック傘下での新戦略「こども でぱーと」構想とその課題

こうした状況の中、2024年にリソー教育は不動産大手ヒューリックの子会社となりました 。これは、自ら建物を建てて出店場所を創造するという積極的な動きと捉えることができます

その象徴的な戦略が、教育関係や習い事を一棟のビルに集約する「こども でぱーと」という教育モール型施設の展開です 。学習塾・英会話・習い事・小児科などをワンストップで集積するモデルです。
医療モールの教育版と言えるかもしれません。
今後の物件パイプラインを見ると、中野、たまプラーザ、自由が丘、渋谷、麻布など、引き続き首都圏のターミナル駅前を中心に増やしていく計画のようです 。

今回、実際に「こども でぱーと 中野」を現地確認してきました。駅・バス停から近く、アクセスは非常に良好です。しかし、いくつか気になる点もありました。

サイン計画: 「こども でぱーと」のファサードサインが英語で気づきづらい、読みづらい。教育施設としての存在感も伝わりにくい。

建物構成: 細長い高層型で、各フロアがコンパクトです。1階にはカフェがありますが、教育施設らしさは弱い印象でした。

駐輪対応: 塾は自転車来訪が多い業態ですが、駐輪禁止表示がありました。実際の運用は別にあるのかもしれませんが、少なくとも来訪者目線では分かりづらい。

そして、最も気になったのが周辺環境です。近隣には、パチンコ店や居酒屋などが多く、時間帯によっては通り全体として喫煙臭もかなり強い状態でした。

もちろん、これらの業種が悪いという話ではありません。しかし、生徒の安全、保護者の印象、ブランドイメージを考えると、教育施設との相性には疑問が残ります。

店舗開発では、駅距離、人通り、賃料に注目しがちです。しかし教育産業では、「周辺環境との適合性」が極めて重要です。
特に、子ども・保護者・安全性・安心感が重視される業態では、立地評価基準そのものを見直す必要があります。

一都三県でのドミナント戦略から全国展開へのシフト、そして現在のヒューリックと連携した不動産戦略強化と、首都圏駅前での教育モール化構想。
リソー教育の出店戦略は、学習塾業界全体の構造変化を象徴しているようにも見えます。

かつて学習塾は、「駅前立地」が絶対的に有利な業態でした。しかし、オンライン授業の普及によって、学ぶ場所そのものの意味が変わり始めています。

その中で今後は、どこに出店するか(保護者と生徒にとっての利便性)、どのような環境を提供するか、保護者や生徒にどのような安心感を与えるか、といった点が、これまで以上に重要になっていくでしょう。

教育産業に求められる立地戦略の再構築。今後の動向に引き続き注目です。


毎週水曜配信YouTubeライブ「週刊 店舗開発クリップ」では、今後も店舗開発の視点から、さまざまな業界動向を解説していきます。ぜひご覧ください。

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