今週の「週刊 店舗開発クリップ」では、高級チョコレートブランドの出店について取り上げました。

きっかけは、JR八王子駅構内にあった「GODIVA GO!」の閉店です。2023年に「駅ナカで気軽にゴディバを楽しめる新業態」として登場した店舗でしたが、わずか数年で全店舗が閉店したと報じられました。

ゴディバほどの認知度があるブランドでも、新業態の出店がうまくいかないことがある。これは店舗開発の視点では重要な現象です。

今回は、GODIVA(ゴディバ)、Lindt(リンツ)、Venchi(ヴェンキ)、Hotel Chocolat(ホテルショコラ)の4ブランドを比較しながら、高級チョコレート業態の出店戦略を考えてみたいと思います。

高級チョコレート業態の前提条件

まず押さえておきたいのは、チョコレートには強い季節性があるという点です。

チョコレートは、冬場やバレンタイン期には売上を作りやすい一方で、夏場には売上が落ちやすい商品です。暑い時期には溶けやすく、消費者の気分としても、重たい甘さより冷たい飲料や氷菓に向かいやすい。

つまり、高級チョコレートの店舗は、年間を通じて安定的に売上を作りにくい業態だと考えられます。

これは出店戦略上、かなり大きな制約です。なぜなら、店舗の家賃や人件費は季節によって下がらないからです。売れる時期に大きく稼ぐのか、夏場でも売れる商品を併売するのか、あるいは店舗面積を小さくして固定費を抑えるのか。この選択によって、各ブランドの出店戦略に差が出てきます。

ゴディバは「非日常」から「日常」へ広げすぎたのか

ゴディバは、日本では長く「百貨店の高級チョコレート」として定着してきました。バレンタインや特別なギフトの場面で使われる、いわば非日常のブランドです。

しかし近年は、かなり日常側へ寄せた展開が目立ちます。GODIVA café、ゴディパン、GODIVA GO!、ショコリキサー、さらにコンビニ、ファストフード、ドーナツ、ヨーグルト、キャラクター、和菓子などとのコラボレーションです。

一粒ずつ高級チョコレートを売るだけでは、家賃負担に耐えにくい。売上の季節変動も大きい。そのため、ドリンクやパン、スイーツなど、日常的に回転する商品を取り込むこと自体は理解できます。

ただし、店舗開発上の問題は、「日常接点を増やすこと」と「ブランドの軸を保つこと」が必ずしも両立しない点です。

GODIVA GO!は、駅ナカの小型区画でドリンクやワッフルを販売する業態でした。しかし、改札内で座席がない小型店舗という条件の中で、消費者は本当にそこでゴディバを買い、すぐに消費するのか。八王子、大塚、田端といった駅とのブランド親和性は十分だったのか。

ここには、単に通行量があるかどうかではなく、消費者の行動文脈と業態が合っていたのか、という問いがあります。

高級ブランドを日常化することは、出店余地を広げる一方で、ブランドイメージの希釈化を招くリスクもあります。ゴディバは、非日常と日常の間でブランドの軸がやや見えにくくなっているようにも感じられます。

ヴェンキは「銀座の成功」から広げ方を誤ったのか

後発ブランドのVenchiは、2019年に銀座の路面店から日本展開を始めました。この出店は非常に良かったと思います。

イタリア発の高級チョコレートブランドとして、銀座の路面店から始める。ブランドの世界観を伝えるには、非常にわかりやすい出店順序です。

ところが、その後の展開は少し気になります。2021年には、名古屋、札幌、大阪、大宮、横浜、日本橋などへ一気に広がりました。2022年には、なんば、木更津アウトレット、京都にも出店しています。

銀座で作ったブランドの鮮度が十分に市場へ浸透する前に、かなり広域へ店舗網が拡大したように見えます。これは、海外ブランドの日本展開でよく見られる「早すぎる広域化」のパターンです。

さらに、ヴェンキの場合はジェラートとの組み合わせが特徴です。これは夏場の売上減少を補う工夫としては合理的です。しかし、ここにも立地との相性の問題があります。

百貨店の物販区画は、チョコレートを買う場所としては非常に良い立地です。しかし、ジェラートをその場で買って、どこで食べるのか。館内を持って歩くのか。座る場所はあるのか。

ジェラートは、商品単体ではなく「食べる場所」とセットで成立する商品です。ローマの街角や広場であれば自然に成立する体験も、日本の百貨店の物販区画にそのまま持ってくると、少し場違い感が出てしまうことがあります。

これは「店舗切り取り型」の出店といえるかもしれません。本国の店舗だけを切り取って日本に持ってきても、その周辺環境まで含めた体験が再現されなければ、消費者の行動にはつながりにくいのです。

ホテルショコラは大型化と広域化が重荷になった

Hotel Chocolatは、2018年にイオンレイクタウンで日本1号店を開業しました。チョコレートの物販だけでなく、カフェスペースを併設した比較的大きな店舗です。

その後、表参道にも大型の路面店を出店しました。英国風のライフスタイルカフェとして、日常と非日常の中間を狙ったブランドだったと考えられます。

しかし、高級チョコレート業態で大型店舗を持つことは、固定費の負担を大きくします。チョコレートの物販は夏場に弱い。そこでドリンクやビューティー関連商品を広げると、今度は店舗面積が大きくなり、家賃と人件費が重くなる。

加えて、首都圏以外への広げ方にも課題があったように見えます。愛知、静岡、福岡などへ出店していく過程では、ブランドを育てるというより、物件がある場所へ出店していった印象も残ります。

結果として、2022年には民事再生法の適用を申請し、現在は国内店舗がなくなっています。これは、高級ブランドの多店舗化において、初期の店舗面積、出店順序、広域化のタイミングがいかに重要かを示す事例ではないでしょうか。

4ブランドの比較

以下は、今回取り上げた4ブランドの出店戦略を整理したものです。

ブランド初期の位置づけ出店・業態の特徴現在の状況店舗開発上の論点
GODIVA
ゴディバ
百貨店中心の非日常ブランドGODIVA café、ゴディパン、GODIVA GO!、各種コラボなど日常接点を拡大約300店舗日常化による出店余地拡大と、ブランド軸のブレ
Lindt
リンツ
物販中心のチョコレートブランド百貨店以外の商業施設、アウトレット、SCなどへ小型店を安定出店。量り売りを軸に展開109店舗物販に集中し、店舗サイズと立地基準がブレにくい
Venchi
ヴェンキ
銀座路面店から始まったイタリア高級ブランドチョコレート+ジェラート。都心一等地から短期間で広域展開11店舗早すぎる広域化と、ジェラート消費に適した周辺環境の不足
Hotel Chocolat
ホテルショコラ
英国風ライフスタイル型チョコレートブランド物販+カフェの大型店。郊外SCや路面店に出店国内店舗なし大型化による固定費負担と、首都圏外への広げ方

なぜリンツは安定して見えるのか

4ブランドの中で、最も安定して見えるのはLindtです。

リンツは、2010年から日本で直営展開を始め、2026年6月時点で109店舗まで拡大しています。16年で109店舗ですから、年6〜7店舗程度のペースです。

このペースは、遅すぎず、速すぎない。しかも、出店方針が比較的ブレていないように見えます。

リンツは、ゴディバのように多業態化を大きく進めるのではなく、基本的には物販に専念しています。量り売りの「Pick & Mix」によって、日常のご褒美やちょっとしたギフト需要を取り込む。店舗も小規模で、省スペースです。

夏場に売上が落ちるリスクは当然あります。しかし、店舗面積を抑え、物販の効率を高めることで、不動産効率を保っていると考えられます。

また、出店立地も「ここにリンツがありそうだ」と思える場所に確実に出ています。百貨店ではなく、日常寄りの商業施設やアウトレット、SCなどで存在感を作っている。これは、店舗網としての一貫性があるということです。

ゴディバのように日常化を急ぎすぎず、ヴェンキのように広域化を急ぎすぎず、ホテルショコラのように店舗を大型化しすぎない。地味に見えますが、この「ブレなさ」が安定の理由ではないでしょうか。

高級チョコレートから学ぶ出店戦略

高級チョコレートの出店から学べることは、業種を超えて多くあります。

第一に、商品特性と不動産効率はセットで考える必要があります。夏場に売れない商品であれば、稼げる時期に売るだけでなく、固定費をどう抑えるかが重要になります。

第二に、併売商品を増やせば解決するとは限りません。ドリンク、パン、ジェラート、カフェを加えることで売上機会は増えるかもしれませんが、それによって必要な面積、設備、人員、立地条件も変わります。

第三に、好立地は業態によって変わります。百貨店1階はチョコレート物販には好立地でも、ジェラートを食べ歩くには必ずしも好立地ではありません。駅ナカは通行量が多くても、座席のない高級スイーツ業態に合うとは限りません。

つまり、店舗開発で見るべきなのは「どこに空き物件があるか」ではなく、「その場所で、消費者がその商品をどう買い、どう使うのか」です。

高級チョコレート業態は、甘い商品を扱う業界ですが、出店戦略としてはかなりシビアです。ブランド力があっても、店舗網の広げ方、店舗サイズ、立地と消費行動の接続を誤ると、短期間で失速することがあります。

これからの店舗開発では、ブランドの知名度だけでなく、商品特性、季節性、消費シーン、不動産効率、出店順序を一体で見る必要があります。高級チョコレート4ブランドの明暗は、そのことを改めて教えてくれる事例だと考えられます。


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