書店の数が減っている、という話を耳にする機会が増えました。

書店マスター管理センター(日本出版インフラセンター)」のデータを見ると、全国の書店数は長期的に減少し、2025年には1万店を下回っています。これだけを見ると、「本屋はもう成り立たないのではないか」と考えたくなります。

しかし、店舗開発の視点で見ると、少し違う景色が見えてきます。

本当に起きているのは、「本を読む人がいなくなった」という単純な話ではなく、本を買う場所、本と出会う場所、そして書店が成立する立地が変わった、ということではないでしょうか。

「本が売れない」は本当か

まず確認しておきたいのは、出版市場そのものです。

出版科学研究所の2025年出版市場データによると、紙と電子を合わせた出版市場は前年比1.6%減の1兆5,462億円でした。紙の出版市場は4.1%減の9,647億円で、1976年以来初めて1兆円を下回っています。ここだけ見れば、紙の出版物は確かに縮小しています。

ただし、内訳を見ると状況は少し異なります。紙の書籍は5,939億円で、前年から2億円増、4年ぶりのプラスでした。一方で、雑誌は3,708億円、前年比10.0%減。週刊誌は17.9%減と、かなり厳しい状況です。

つまり、「本が売れなくなった」というより、紙の出版市場全体は縮小しているが、その主因は雑誌の落ち込みであり、書籍はむしろ底堅い、と見るべきでしょう。

新刊点数についても、2024年の書籍新刊点数は65,322点とされており、2015年の76,445点からは減っているものの、今でも年間6万点以上の新刊書籍が出ています。問題は「本がない」ことではありません。これだけ多い本を、どこで、どう見つけてもらうかが問題なのです。

書店数減少は「読書離れ」だけでは説明できない

読書習慣については、厳しい数字もあります。文化庁の令和5年度「国語に関する世論調査」では、全国16歳以上を対象に、雑誌・漫画を除き、電子書籍を含む「本」を1か月に何冊読むかを尋ねています。その結果、「読まない」は62.6%、「1、2冊」は27.6%でした。

同じ調査では、読書量が以前より「減っている」と答えた人が69.1%にのぼり、その理由として「情報機器で時間が取られる」が最も多く挙げられています。大人の読書習慣が弱まっていることは否定しにくいでしょう。

一方で、同調査では、本を読まない人のうち75.3%が、SNSやネット記事など「本ではない文字・活字情報」にほぼ毎日触れているとされています。つまり、人々が文字を読まなくなったわけではない。文字・活字に触れる場所が、紙の本からスマートフォン、SNS、ネット記事へ広がったと見る方が正確です。

子どもについても一枚岩ではありません。全国学校図書館協議会の第70回学校読書調査では、2025年5月の1か月間の平均読書冊数は、小学生12.1冊、中学生3.9冊、高校生1.4冊。不読者の割合は、小学生9.6%、中学生24.2%、高校生55.7%でした。

小学生はまだかなり本を読んでいる。しかし、中学生、高校生、大学生へと進むにつれて読書習慣が弱まる。書店の立地戦略を考えるうえでは、この年齢階層ごとの違いも重要です。

書店の立地はどこへ移動したのか

では、書店数の減少は何を意味しているのでしょうか。

書店マスター管理センターの自治体別データを使い、2016年から2025年にかけての増減を見ると、減少率が大きい自治体にはいくつかの共通点が見えてきます。

たとえば、川崎市麻生区や大阪府交野市では、2016年に7店あった書店が2025年には1店となり、減少率は85.7%でした。ほかにも、岐阜県海津市、京都府相楽郡、兵庫県加東市などで大きな減少が見られます。

ここで重要なのは、これらの地域で急に本を読む人がいなくなったと考えるより、本を買う場所が移動したと考える方が自然だという点です。

1990年代後半から2000年代初頭にかけて、郊外ロードサイドには書店とレンタルを組み合わせた複合大型店が多く出店しました。蔦屋、ゲオ、カルコスなどに代表されるような店舗です。しかし、動画・音楽配信サービスの普及、レンタル需要の縮小、フランチャイズ契約の満了などが重なり、2010年代後半から2020年代前半にかけて、こうしたロードサイド型店舗の撤退が進んだと考えられます。

もう一つの変化は、大型商業施設や駅ビルへの需要集約です。2005年前後は郊外大型ショッピングセンターの開発が進み、2013〜2014年前後には都市部・駅周辺の商業施設開発が増えました。そこに大手書店チェーンが出店することで、地域内の書籍需要が大型施設へ集約されていったのではないでしょうか。

つまり、書店は消えたのではなく、ロードサイドや商店街から、駅ビル、大型SC、都市型大型店へと立地を変えてきたのです。

書店は「本を売る場所」から「本と出会う場所」へ

この変化は、書店の役割そのものの変化でもあります。

従来の書店は、地域の日常的な購買拠点でした。雑誌、漫画、参考書、文庫、地図、実用書が並び、近隣住民が必要な本を買いに来る場所だったと言えます。

しかし、雑誌が大きく縮小し、ネット通販や電子書籍が普及した現在、「必要な本を買うだけ」の機能では、リアル書店の優位性は弱くなっています。

一方で、大型書店や個性的な独立系書店には、別の価値があります。それは、検索では出会えない本に出会うこと、地域性や店主の編集によって本を発見することです。

神保町の三省堂書店神田神保町本店は、2026年3月に約4年ぶりにリニューアルオープンし、1〜3階を約600坪・約50万冊の書店フロアとし、カフェやイベントスペースも設けています。単に在庫量を競うだけでなく、回遊や偶然の出会いを設計する方向へ進んでいる点が注目されます。

また、熊本県南阿蘇村の無人駅内にある「ひなた文庫」や、三軒茶屋の猫本専門店「Cat’s Meow Books」のようなテーマ特化型の書店もあります。こうした店は、商圏人口だけで説明するより、テーマ性、コミュニティ性、目的来店性で成立していると見るべきでしょう。

店舗開発視点での学び

書店のケースから学べることは、他業種にも通じます。

第一に、店舗数の減少を需要消滅と短絡してはいけないということです。市場が縮小しているように見えても、実際には需要の受け皿が変わっているだけの場合があります。書店の場合、商店街・ロードサイドから大型SC・駅ビル・都市型大型店へ、さらにテーマ特化型店舗へと、需要の受け皿が分かれてきました。

第二に、店舗網は「点」ではなく「面」と「密度」で見る必要があります。ある自治体で書店が減っていても、隣接自治体の大型SCや駅ビルに大型書店が出店していれば、生活者の購買行動はそちらへ移動します。行政区単位の店舗数だけではなく、生活圏全体で市場カバーを評価する必要があります。

第三に、これからの書店出店では、標準型の出店余地と、編集型・テーマ型の出店余地を分けて考える必要があります。大型SCや駅ビルでは、集約された需要を取り込む大型・中型書店が成立しやすい。一方で、空白地帯や観光地、住宅地、駅近の小さな区画では、地域性やテーマ性を持つ独立系モデルが成立する可能性があります。

「どこに出すか」だけでなく、「どのような本との出会いを、どの立地で提供するか」が問われているのです。

まとめ

書店数の減少は、たしかに大きな構造変化です。しかし、それを「本屋は終わった」と見るのは少し早いように思います。

紙の出版市場は縮小していますが、書籍は底堅く、毎年6万点以上の新刊が出ています。読書習慣は弱まっている一方で、人々は文字・活字に触れ続けています。変わったのは、本そのものの価値というより、本と出会う場所、本を買う場所、本を選ぶ体験です。

店舗開発の視点で言えば、書店業界で起きているのは、立地の再編です。ロードサイド型・商店街型の役割が弱まり、大型SC・駅ビル・都市型大型店への集約が進む。その一方で、テーマ性を持つ小型書店や独立系書店が、新しい市場の隙間を埋めていく可能性もあります。

書店の出店戦略を考えることは、単に書店業界を見ることではありません。人口減少、オンライン化、商業施設の再編が進むなかで、リアル店舗がどのように存在価値を再定義するかを考えることでもあります。

店舗数の増減だけを見るのではなく、需要がどこへ移動し、どの立地に集約され、どのような新しい出店余地が生まれているのかを読み解くことの重要性を再認識できたように思います。


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