リテールブランドの運営において、ブランド認知度の把握は重要です。なぜなら、消費者は「何屋だか知らない店(=認知していない店)」には入店しないためです。消費者は、リテーラーのブランドをまず認知し、さらに、行動範囲内に店舗が存在することを知ることによって、実際に入店するのです。

日本市場においてよく成長目標のベンチマークとされる、誰もが知っているようなリテールブランドと、その他ほとんどのリテールブランドの間で圧倒的な差があるものは、この「認知度」です。極端な場合、100対10くらいの差、つまりベンチマークとするのが無謀なほどの開き、があることもあります。

リテーラーが成長するためには、まず認知度を上げることが先決です。これが低ければ、新たなマーケットに進出したとしても、利用経験者の数も高まらず、高い売上は期待できません。実店舗への顧客の十分かつ継続的な来店も期待できません。また、そもそも店舗を開ける機会を十分に得ることも期待できません。

現在のマクドナルドやスターバックスなどのブランド認知度は100%に近い値を示しますが、そうした企業も最初からそうであった訳ではありません。

ブランド認知は一朝一夕には獲得できません。継続的な投資も必要です。では、どの程度のブランド認知度獲得を目指すべきなのでしょうか?

リテールブランド成長の最終目標「定番化」とは

多くのリテーラーが多店舗化を進めていますが、その(いったんの)最終目標は何なのでしょうか?それは、屋号(リテールブランド)を“定番化”することと言えます。

定番化した状態とは、ある程度の規模の商業集積であれば、とりあえずあの店は出店しているだろう、と消費者に思われているような状態を意味します。十中八九の人がブランドを認知しており、一度は利用したことがある人がほとんど、という状態です。消費者の生活圏内のいたるところに店舗があり、店舗を日常的に目にするため、消費者の記憶からブランドに関する事柄が消える(=忘却される)ことも期待されにくくなった状態です。

このような状態を最終段階としたとき、新たに興ったリテールブランドが定番化するまでにはどのような成長段階を経るのか?定番化するためにはリテーラーはどのくらい店舗を開業する必要があるのか?

こうした中長期計画を考えるときには、よりどころとなるフレームワークがあると便利です。そこで、福徳社は、独自の【MPFSモデル】をご提案します。

MPFSモデルとは

MPFSモデル

“定番化した”という形容詞は英語でStandardと言います。【MPFSモデル】のS は Standard の S です。そして、新たに興ったリテールブランドが定番化する前に、M(Mania マニア)・P(Popular 人気)・F(Famous 有名)の3つの段階があるという考え方が【MPFSモデル】です。

では、なぜそのようなことを考え、“モデル”を作る必要があるのでしょうか?

何か目標を掲げるものの、目標達成が途中で頓挫してしまうことがあります。その原因の多くは、目標を達成するまでの筋道がはっきりせず、どのように進んでよいかが分からないままに時間が経ってしまうことです。目標を立てた時と比べて環境が変わり、結局は目標を修正したり、白紙に戻したりせざるを得ず、当初の目標は達成できずに終わってしまうのです。そうならないためにあらかじめ必要なものが、目標達成までの方向性や筋道を示す“考え方のモデル”なのです。

定番ブランド(S) 

※認知度(助成想起)の目安:90%以上

リテールブランドの最終目標である定番化を達成したブランドが【定番ブランド】です。しかし、リテールブランドがいきなり定番化することはなく、そこに至るまでに3つの段階を経て【定番ブランド】に到達できるのです。

有名ブランド(F) 

※認知度(助成想起)の目安:70%以上

定番化のすぐ前の段階にあるブランドが【有名ブランド】です。定番化まではいかないものの、多くの人が存在を知っている、つまり、Famous(有名)なブランドになってることを意味します。定番化するブランドであれば、その過程で必ず到達しなければならない状態であると言えます。

なお、有名であることと、定番化されている状態は異なると考えるべきです。定番化とは、有名であることを超えて、消費者の生活圏においては”あって当たり前”に近い状態です。名前は知っているが、身近に店舗がないため行ったことがない、あるいは、行ったことはあっても、はるか前でいつ行ったか覚えていないようなブランドは、定番化しているとは言えないのです。

マニアブランド(M) 

※認知度(助成想起)の目安:40%未満

定番化するリテールブランドの成長の初期段階である【マニアブランド】とは、成長の初期段階から、絶対数はそれほど多くなくとも、一定数以上のファンがついている状態を作れているブランドです。リテールブランドの日本1号店に行列する人々は、そのブランドをかなり早い時期から知っている、あるいは、海外で利用したことがあるなどの特殊な経験を経ている人々であり、マニアックなファンであると言えます。マニアックなファンの多くは、遠方からでもわざわざ来店し、長時間待つことも厭わず、客単価が高く、口コミやSNSでの情報拡散にも積極的で、ブランドの立ち上げに貢献します。

酷な言い方になりますが、初期段階からこうしたファンがついていないブランドが定番化することはまずありません。リテールブランドの成長にとって、新規出店以外の初期のファン獲得努力は重要です。

人気ブランド(P) 

※認知度(助成想起)の目安:40%以上

定番化するまでの4段階の最初はM (Mania) 、マニアなファンがついている状態。3番目はF (Famous) 、多くの人々に知られた有名な状態。最後が定番化のS (Standard)であることをご説明しました。

そして、M と F を結ぶのが Popular の P、【人気ブランド】の段階です。

これは、マニアだけだったファン層が急激に拡大する段階です。話題性が高まり、口コミ・ソーシャルメディアでの情報拡散やマスメディアへの露出などが増え、それに伴い新規出店も加速するなど、リテールブランドが活性化している状態です。そのブランドを知っている人の数も大幅に増加し、【有名ブランド】の仲間入りを果たすための地力をつける段階です。

参考資料

この戦略的フレームワークは、弊社が2016年に実施した「リテールブランド浸透度調査」のデータ及び、調査対象ブランドのケーススタディーに基づいて構築されました。調査レポートはこちらに掲載されています