昨日、新規出店をどのように進めるかを考える際には、大きく分けて2つの考え方があるというお話をしました。一つは、自社が未出店のエリア、市場ポテンシャルがまだ残っているエリアを狙って出店するという考え方です。が、そのようなエリアは他社にとっても出店の優先順位が高いことでしょう。そうした状況にも関連して、もう一つの考え方が必要となります。

新規出店をどのように進めるかを考える際の考え方の二つ目は、市場が“縮小”する中で必要な考え方ですが、関連するエピソードを2つご紹介します。

2001年のお話です。

今でこそ1,000店舗を超え、すっかり日本の市場に定着したスターバックス コーヒーですが、当時はまだ300店舗もない段階で、米国本社からは“もっと店を開けろ”という圧力があり、それに対して、日本で実際のところ何店舗開けられるのか?ということが社内で問題となっていた時期でした。

米国ではワンブロックに1店舗あることもザラで、その感覚でいけば日本でも相当数の店舗が開けられると思われる一方、日本の物価や賃料等を考えると採算をとるために1店舗が売らなければならない金額は想像以上に高く、それが可能な立地となると制約がある…、といった状況の中で、“もっとどんどん店を出せ”という米国本社と、“いやそんなに出せない”という日本支社との攻防戦が続いていました。

その煽りで私も何度となく日本国内での出店数に関する試算を出したことがありました。当時の店舗フォーマットのみで展開するという前提で、人口等の数字から計算される数字と、具体的な立地としてどこがあるかを、北は北海道から南は沖縄まで、都市レベルまでしらみつぶしに調べました。記憶では、1,039という数字を出したと思います。現在はドライブスルーなどの店舗フォーマットも出来て、その数字は超えています。

そんな2001年11月、ハワード・シュルツ氏が同席する戦略会議でのこと。日本法人の店舗開発部門が日本国内での店舗数の推移などを報告した後、「昨今競合の出店が激しい」という報告をし、色とりどりのコーヒーショップのロゴが貼られた新宿の広域地図をプロジェクターに映した瞬間、ハワード・シュルツ氏が立ち上がり、大ボリュームの声が会議室に響き渡りました。

「It’s a war(これは戦争なんだぞ)!君たちは、自分の家の台所に他人が勝手に入ってきて、冷蔵庫を勝手に開けてムシャムシャ食ってても平気なのか?」

ほぼ同じ時期、ハワード・シュルツ氏の叱咤を受けたスターバックス コーヒー ジャパン社がガンガン新規出店する中、茨城県の水戸駅付近の路面にめでたくスターバックスが出店した際のことです。その立地をスターバックスに取られたということで、マクドナルドの当時の社長・藤田田氏は憤慨したそうです。

出店は市場ポテンシャル、立地を奪い合う“戦争”であるということを思い起こすことが、また、それをご存じない方にはそうした気概を持つ必要が、市場が“縮小”する今後はますます必要になると思われることから、かつて店舗網を急拡大した企業のトップの言葉を共有させていただきました。(了)